大切なのは、普段多くの機能をあまり利用しないユーザーの目には機能を見えなくしておくということ。その上で、利用しそうなユーザーには、より高度な機能を徐々に紹介し、認知・学習させていく。機械がユーザーを育てていく概念を取り入れれば、UIはさらに進化すると思うのだ。

 ゲームソフトのUIがネット業界に比べ、20年近く進化していると前述した。それは、ネット業界のUIが、「時と場合に応じて機能を出し分ける」レベルでしかないからである。テレビのリモコンのように“機能むき出し”のWebサービスも、まだ少なくない。

 ネット業界が生まれて15年ほどになるが、一つのWebサービスが備える機能がどんどん多くなってきた。それが初心者にとっては大きなハードルになりつつある。

 例えば、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「ミクシィ」のようなサービスを初期から使っているユーザーは、日記とコミュニティー機能だけの時から使い始めて、これまで少しずつ機能が増えてきたから、サービスの進化と自分の学習レベルが自然と合っていた。

 ところが、最近、会員登録して新規に始めようと考えるユーザーは、日記やコミュニティーだけでなく、写真や動画、ニュースといった多様な機能にいきなり触れることになる。Webサービスの世界でも、今やゲーム業界が培ってきたコーチングするUIの設計ノウハウを取り入れるべきタイミングに差し掛かっている。

友人との交流をタネにコーチング

 既に、その動きはネット業界で一つの潮流になりつつある。世界最大規模のSNS「Facebook」はその一つだ。SNSは、登録しても交流する友人がいないと、その面白さが分からない。だから、「同じ大学にいるユーザーにはこんな人がいますが、友人になりませんか」と勧めたり、メッセンジャーやWebメールのコンタクト・リストを使って友人を推薦したりする機能を提供している。サービスの面白さにユーザが気付くための仕掛けを組み込んでいるわけだ。

 このほか、友人が新しいゲームをSNS上で利用し始めると、「○○さんが××ゲームの利用を始めました」というメッセージが届く仕組みもある。これにより、自分では決して気が付くことのなかったSNS上のゲームを始めるキッカケを与えている。いずれも、友人とのつながりをタネに、機械がヒトをコーチングする仕掛けと言えるだろう。

 機能が格段に豊富になってきたネット業界では、ゲーム業界と同じようにサービスと機能を学習させるコーチングという概念をUIに導入する取り組みが重要な役割を果たすようになりつつある。今後、家電などの機器が当たり前のようにネットにつながる時代が来れば、同じ道をたどることは間違いない。

 ものづくりの世界の方々と同様に、ネット業界もより進化していかなければならない。iPhoneを超える革命的なUIを発明できる余地はまだまだある。その手本は、日本が先導するゲーム業界という、とても身近なところにあるのだ。これを生かさない手はない。