このほか、ダウンロードした直後に「この素材もどうですか?」とコンテンツを推薦する機能も加えた。こうした工夫だけで、素材のダウンロード数が改良前のほぼ1.7倍になり、ユーザーの退会率が20%から16%に下がった。時と場合に応じて機能を出し分けるUIの工夫は、かなり効果的なのだ。

 iPhoneのUIは、非常によくできているといわれている。直感的な操作性と同時に、時と場合に応じて機能を出し分ける仕組みがうまく取り入れられていることが大きな理由の一つだろう。だが、これが究極ではないと私は思っている。

 IT(情報技術)が大好きな人で、新しい機能を自分で探し、調べて、使いこなしていくようであれば、iPhoneの面白さをドンドン理解していけるとは思うが、その豊富な機能を使いこなせていないユーザーは多い。私の友人でも、iPhoneを買ったものの、電話とメールと携帯音楽プレーヤー代わりにしか使っていないという人が意外にいる。

 私はUIの進化には、まだ先があるとにらんでいる。それが、ユーザーに助言を与え、教育するコーチングの概念を含んだUIだ。iPhoneは、その豊富な機能や面白さをユーザーに理解させていくプロセスが、設計概念に含まれていないのだ。

お手本は身近なところに

 コーチングの概念を入れたUIのヒントは、とても身近なところにある。家庭用ゲーム機とそのソフトだ。ゲームソフトのUIは、ネット業界のUIに比べ、20年近く先を行っていると思っている。

 例えば、ドラゴンクエストのようなロールプレイング・ゲーム(RPG)では、キャラクターがあるレベルにならないと使えないコマンドがあり、それはゲームを始めたばかりの時には見えない。ゲームを進めて行くうちに、キャラクターが成長し、あるレベルに達すると必要な機能が使えるようになる。

 格闘系ゲームもそうだ。レベルが低いうちはシンプルな技しか使えないが、それだけで相手を倒せる。しかし、レベルが上がるにつれ、より多様な技を使わないと倒せなくなる。レベルが上がると、新たに使えるようになった技のトレーニング・モードになり、そのトレーニングを終えると、実際のゲームがスタートする。

 ゲームのシナリオ自体に、「ユーザーをどうトレーニングしていくか」というコーチングのシナリオが含まれていて、ユーザーの進化に合わせて、機能や世界が少しずつ増えていくのだ。

 この仕組みが有効なのは、RPGや格闘ゲームのような分野だけではない。私が最近買ったニンテンドーDS向けのゲームソフト『知らないままでは損をする「モノやお金のしくみ」DS』も、その辺りをうまく考えている。