半導体産業に限らず、技術が複雑化、システム化する状況に気が付かずに、対応が遅れて競争力を落とす---という図式は日本の典型的な負けパターンである。以前のコラムで紹介した『ものつくり敗戦』では、この新しい状況を「第三の科学革命」と呼ぶ。

 同書によると、戦後、科学と技術が結びついた流れ(第二の科学革命)とシステム化の流れ(第三の科学革命)という二つの流れが起きた。「戦後の技術はこの二つの流れ、すなわち自然の可能性を開拓して技術にそれを実現しようとする流れと、技術が生み出す新しい人工物の論理を開拓してより大きな社会的価値を生み出そうとする流れが、幾重にも重なり合い互いに補い合って発展してきた。後者の比重が前者に比べて次第に大きくなる過程が、戦後技術の歴史であったとも言える。(中略)戦後の科学技術の二つの流れのうち、第三の科学革命がもたらした新しい科学技術の流れは基本的には認知されることのないまま今に至っている」(同書p.144)。

 「二つの流れ」を、「システムの時代」と「デバイスの時代」と見るのが、東京大学工学研究科システム創生学専攻教授の宮田秀明氏である。同氏は、日経マイクロデバイス誌2009年10月号に掲載した論文「再来する『システム時代』デバイス技術者はアーキテクトへ進化すべし」の中で、1960~1970年代はアポロ計画や新幹線などの「システムの時代」、1980~2000年代はマイクロプロセサやDRAMなどの「デバイスの時代」であり、2010年以降はLiイオン2次電池を使った社会システムなどの「システムの時代」になると予想している。

 マクロでみるとこのような区分けになるのかもしれないが、ミクロで見ると、前述したように「デバイスの時代」の主役であるマイクロプロセサやDRAMも1990年代から内部でシステム化が進展していたのである。二つの流れは、ミクロレベルでは複雑に絡み合っており、技術や時期によってどちらが優勢かどうかはめまぐるしく変わっているということかもしれない。ただし、今後は次第に「システム」の度合いが強まっていくと見ている点については、ここで紹介した各論者とも一致しているようだ。

 処方箋は簡単ではない。ただ、前述の中馬氏らの論文を読んで、一縷の望みだと思ったのは、日本企業の中でも最前線で市場に対峙していた技術者達は「実装技術のシステム化傾向とそのビジネス上の長期的な帰結を感知していた」という指摘である。しかし、彼らの「臨場感」は企業のトップには届かず、旧来の組織のくくりのままだったことが対応の遅れにつながった。同論文はこう締めくくる(p.76)。

 「その解決策は、自律分散型の組織維持を最重要課題としながらも、ITを駆使した“神経系”を導入した組織内コミュニケーション構造の再設計により、情報転送速度と応答速度、再構成能力を高める以外に方法はないはずである」。