今まで3D関連の技術開発例は数多く見てきたが,今年ほど身近に感じたことはなかった。2009年が「3D元年」だという話も,決して言い過ぎではないと思う。その中でも著者が一番興味を持ったのは,この8月に富士フィルムが発売した世界初の3Dデジカメである(同社の発表資料Tech-On!関連記事)。

 このカメラは1000万画素のCCDと光学ズーム・レンズを2基搭載しており,動画も静止画も3D撮影が可能である。背面には裸眼で3D表示可能なパララックス・バリア方式の2.8型SVGA液晶ディスプレイ(2Dモードでは800×600画素,3Dモードでは400×600画素)を搭載しており,撮影した画像や映像をすぐに3D画面で確認できる。

 実際に使ってみると,使い勝手を良くするための様々な工夫がなされていることが分かる。特に,表示する時にマニュアルで3D視差を調整できる機能は便利だと思った。人によって自然に感じる3D視差は異なるからである。近い被写体は3D画像の立体感がやや不自然になる場合もあるが,撮った画像や映像を周りの人々に3D表示で見せてあげるという目的ならば十分な性能である。もちろん2Dモードでの通常のデジカメとしても使えるので,遊び心をくすぐる面白い商品だと思う。

 ただ残念なのは,せっかくオリジナルの3D画像や映像を撮影しても,今のところ大画面で楽しむことができない点である。富士フィルムではパララックス・バリア方式の8型SVGA液晶ディスプレイ(2Dモードでは800×600画素,3Dモードでは400×600画素)を付属品として発売しているが,これが現状では表示可能な最大画面であり,これ以上の解像度で表示させる手段は今のところない。願わくは,このような3Dデジカメで撮った画像を簡単に表示できるような大型3Dテレビの早期商品化を期待したい。逆に,現在BSで放送されている3D番組をこのような3Dデジカメで簡単に表示させることができれば,3Dコンテンツの普及を加速させる効果も期待できる。

 今後3Dが本格的に普及するためには,あらゆる3Dコンテンツ間の互換性(解像度の変換を含む)が大きなカギとなるであろう。3D対応の画像や映像が汎用標準フォーマットとして普及し,携帯電話機やパソコンの画面が3D表示に対応し,いつでもどこでも誰もが気軽に立体映像を楽しめる日が一日も早く来ることを切望している。