歴代の弟子たちが振るって来た向こう鎚に使う大槌。
歴代の弟子たちが振るって来た向こう鎚に使う大槌。

 それでも河内の元には毎年、何人か弟子入り希望者がやってくる。弟子を取らない刀匠も多いが、河内は彼らの思いを聞いたうえで、大丈夫と判断したら入門させる。もちろん、年季明けまで持たない弟子もいるが、独立して刀匠となった弟子たちも着実に増えて、6人を数えるようになった。彼らは、新作刀展で特賞を取るなどして、少しずつ日本刀の長い歴史の一角に自らの足場を築きつつある。

 「親方が下手なら弟子も下手」というのが河内の口癖である。親方が上手なら弟子も上手とはいかないだろう。けれど、少なくとも親方が上手であることは、弟子をとるものとしての責任でもあると考えているのだろう。だから当然、河内自身の作品に対する眼も厳しくなる。

向こう鎚に立つ場所の天井。
向こう鎚に立つ場所の天井。

「河内さんの作る作品に変なものはないですね。選別をよほど厳しくしているんでしょう」

 美術日本刀専門店「つるぎの屋」の店主、冥賀吉也(みょうがきちや)は、河内の作刀に対する姿勢をそう評す。刀剣店の老舗「刀剣柴田」から独立して名作刀剣を数多く扱う冥賀は、冷静な目と、日本刀愛好者としての熱い思いを合わせ抱くプロフェッショナルだ。

 その彼から、高く評価された河内が、自らダメ出しをしてはねた作品を見せてくれた。
「この前、伊勢神宮の式年遷宮の仕事をして、3振(ふり)の刀をおさめたんやけど、そのために何振作ったことか」

図9

 そう言って取り出した失敗作のひと振は、仕上げ研ぎの段階で不備が見つかったものだという。
「よう見たらわかると思うけど、ここにフクレが出てるやろ。空気が入っているんや」

 フクレとは積み沸かしと鍛錬の工程中、積み重ねたり折り返したりする過程で鋼と鋼の間に空気が入ることでできてしまう膨らみである。それがたまたま、ほぼ最終の工程である研ぎ師による仕上げ研ぎの段階で見つかった。そうは言っても、ここと指差され、目を凝らしてようやくそれと分かるほどの膨らみである。

 「錬り方が悪かったんやろうな」と河内は言う。「使うんなら問題はないはずや。でも今はそれが許されない」。