設計・生産 ものづくり現場の競争力アップに貢献する
 

第16回・開発購買という活動の不思議(3)

野町 直弘=アジル アソシエイツ 代表取締役社長
2009/09/17 19:00
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開発購買は必要か?

「…」鈴木は前田の質問の意図が分からず,何も言えなかった。
「鈴木さん,今私が言ったような仕事って,本来は開発の仕事じゃないか? 常に新しい技術を開発,活用して新しい製品を世の中に送り出す。まさに開発の仕事そのものだよね。購買も同じだよ。常に新しい技術をサプライヤーと一緒に育成する,それを自社の製品に盛り込むことで自社の製品競争力を強化する。購買の本来業務だよね」。
「まあ,そう言われてみると…」
「そうでしょう。つまり,開発購買グループなんて本当は不要な部署なんだよ」。
「えっ,そんなことないじゃないですか。少なくとも前田さんの存在意義はあるんじゃないですか?」
「鈴木さん,ありがとう。でも組織っていうのはそういうもの。本来やらなければならない業務ができていない。それをやるための新しい組織をつくる。そうするとやらなくてもよい余計な事までやりだす。まあ,今の開発購買グループはまだ何もできていないだけましかな。ふふふ」。
前田は半分冗談めかしてこう続けた。

「そもそも,開発購買グループが発足したのは,何でだか分かる?」
「いいえ,すみません」。鈴木の口癖が久しぶりに出た。
「いやいや,謝る必要はないけど…。今の購買本部長は5年前に購買部に来たんだけど,もともと設計部出身だよね。今でも開発部門の中には購買本部長の影響力はある。社長が代わって購買プロパー以外の購買本部長を連れてきたんだ。
 社長は就任当時,購買本部が一番分からないと言っていたんだ。前の本部長が天皇と呼ばれていた時代だよね。社長はそれを問題視して,開発出身の今の購買本部長に交代させた。購買本部長は着任後すぐに,今までのやり方だけでは限界があることを理解してくれた。どうしても開発・設計部門の協力を得ない限り,これ以上のコスト削減は難しいと。でも同時に,本部長は今の設計部に協力させることが難しいことも知っていた。特に開発本部長は購買本部長と出世を競い合っていた人だからね。トップダウンも利かない。
 そこで購買本部長は,開発・設計部門に本来の業務をやらせるんじゃなくて,購買部主導で開発購買を進めようとした」。

「それで,どうなったんですか?」鈴木は催促するように言った。
「うん,その結果が標準品データベース,全社で共通で使える,いや,設計に使わせる部品をあらかじめ登録しておいて推奨マークを付けておく,設計はそれを参照して部品選定をする,そういう仕組み。システムコンサルティング会社のHAL社の支援を受けて,1億の金をかけたものの,結局日の目を見なかった」。
「えっ,1億もですか。なんで日の目を見なかったんですか?」
「設計が必要な情報の多くが社内のどこにもなかったからだ。設計が必要な情報の多くは,例えば田中さんの頭の中にあった。これを吐き出させて定型化した瞬間に,情報は陳腐化する。これが結論。それで次に考えたのが開発購買グループさ。本来やらなければならない開発の業務ができないのなら,開発者を集めて新しい部署を作ってしまえと」。

「それは分からなくはないですけど,じゃあ何で購買部の中に作ったのですか?」鈴木はだんだん興奮してきて,声が大きくなっていった。
「鈴木さん,それはもともと購買部にとって必要だったからだよ。ただそれだけの理由さ。言ってみれば組織理論だね」。
「じゃあ!開発購買グループって!出世争いの果てにできた部署なんですか?」鈴木はほとんど叫んでいた。
「ちょ,ちょっと,鈴木さん,そんなこと大きな声で言うもんじゃないよ。面白い人だね,あなたも」。

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