COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 
藤堂 安人=主任編集委員
2009/09/11 14:00
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 イノベーションを生み出せる人材をいかに育成するかが大きな課題となっているが、そのポイントの一つが人材養成機関としての大学が今後どう変われるか、であるようだ。前東京工業大学監事の西村吉雄氏がインタビューで次のように語っている。

「Web2.0時代に大学というビジネスモデルが成り立つかという問題意識を持っています。ウエブ上に膨大な知識が蓄積され、整理され、共有され、不特定多数の人間の知的共有が可能になっている時代です。実空間と実時間を共有しなければ果たせない知的活動とは何なのか。これを徹底的に考え抜き、実世界とウエブ世界の補完関係を創るのに成功する大学が生き残るのだと考えています」。

 西村氏の言う「実空間と実時間を共有しなければ果たせない知的活動」の一つが、このコラムの前々回でとりあげた「暗黙知の次元」であろう。職人の匠の世界だけでなく、科学技術上の新しい発見やビジネスモデルを考え付くプロセスにも暗黙知が関与している。この暗黙知は、マニュアルやモデル、ましてやウェブ上のコンテンツを通じて、鍛えることはできない。例えば、コラムで書いたように、実際に起きた事例(ケース)を皆で議論し、当事者の視点に立つことによってある程度は訓練できるという性格のものだ。こうした暗黙知を鍛えるための重要な機関の一つが大学であろう。

 その意味で西村氏がこれからの大学が挑戦するテーマとして「全寮制」を提言しているのは示唆深い。教育者と学生が寝食を共にして、実空間と実時間を共有することで、暗黙知やビジネス・インサイトを鍛える道場のような役割を果たす可能性がある。

 加えて、ひとつ思ったのは、寮のようなところで学生同士が実空間と実時間を共有することで、互いの個性を認め合い、互いに得意・不得意があるということを認識して、補完しあう訓練ができるのではないか、ということである。前々回のコラムで、「日本はそういうこと(注:新しいビジネスモデルなど)を議論するだけの人と,やたら秘伝のたれだけを造って喜んでいる人がいて,うまくつながっていないような気がします」という三菱化学の小林喜光社長の話を紹介した。寮のような濃い空間で多様な個性と接することで、自分の得意分野は何なのかということと、自分が不得意な分野では他人はどのような思考を持っているのかが分かり、「つなげる」訓練ができる可能性がある。

 このコラムに対して,団塊の残骸氏から、「先端技術によるブレークスルーを追い求める人間」と「ブレークスルーから実際の製品化まで苦労して実現する人間」の2種類の人材がいて、この両者が上手く回って成果が出ると思う,というコメントをいただいた(コメントの原文はこちら,Tech-On! Annexへの会員登録が必要です)。もしそうだとしたら、「寮」には「両者を上手く回す」訓練ができる効果があるということかもしれない。

 歴史を遡ると、日本の産業界は戦後、欧米の近代技術にキャッチアップする段階で、大学での勉強の成果などは問わずに白紙の学生を受け入れて、自前で社員教育を施してきた。西村氏は著書『産学連携』の中で、こう書いている(p.198~194)。

「在学中に勉強しなかった大学卒業生を産業界は喜んで受け入れてきた。自前主義の大企業は教育研修も自前主義だった。大学から白紙の学生を大量に採用し、社内研修で均一な技術者集団に育てていく。企業の大学への期待は粒の揃った人材の供給である。よく勉強する学生は自我が強く、会社色に染めにくい。そう言って、勉強してきた卒業生を嫌う傾向さえあった。(中略)この日本の大学を失敗だったというわけにはいかない。むしろ大成功だったのだ。なにしろこれで、世界に冠たる経済成長を成し遂げたのだから」。

 しかし、90年代以降、この成功モデルが機能しなくなってきた。この成功モデルはもともと、近代技術へのキャッチアップをベースにしていたので、目的に向かって一致団結して達成する特徴を持っていたが、産業構造が変化して目指すべき目的を自ら作り出す必要に迫られるようになったのである。西村氏が日経エレクトロニクス編集長時代に書いていたように、「どうつくるか」から「何をつくるか」へ、垂直統合から水平分業へという方向にトレンドが変わってきた時期でもある(Tech-On!関連記事)。

 西村氏は前述の本の中でこう書く。「目的そのものを自ら生み出す、仕事の主体がこう変わるとき、均一な集団は無力だ。新しい目的、言い換えれば新しい価値、これは異質な考えの出会いと交流のなかからしか生まれないからである」。

 そして、異質な考えの出会いと交流を本当に深めることができる場は、ウェブ空間というよりは、実空間と実時間を共有する場であるようだ。そこに大学が果たす役割は依然大きいというべきだろう。

 大学は、これまでの「勉強しない均質な学生を送り出す」という過去の「成功体験」を清算し切れていないように見える。企業側も、西村氏がインタビューで指摘するように、大学や学生に求めるものが建前(「優秀なエンジニアが欲しい」)と本音(「給料は上げない、エンジニアの数も増やしたくない」)の間で揺らいでいるようだ。「異質な考えの出会いと交流を深められる人材」というあたりをキーワードに、両者のベクトルを合わせていく時期なのかもしれない。

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