開発購買は蝙蝠(こうもり)か?

 鈴木は頃合いを見計らって,前田に声をかけた。
「前田さん,お久しぶりです。お元気ですか?」
「やあ,鈴木さん,久しぶりだね。忙しいかね?」

 前田は鈴木が入社,配属された当時となりの部署の主任であった。年は30代後半,既に課長になってもよい年齢だが今は課長格という役職なし管理職だ。
 前田は設計部としては珍しい経歴を持っている。技術者としては相当優秀であり,今の鈴木の直属の上司である川根課長と若いころには,よく比べられたようだ。先の田中の紹介ではないが,正に次代の設計部門を担う2人,と言われていたようだ。それが,詳しい事情は分からないが,30代前半という若さで子会社の設計部門に3年間出向,戻ってきて数年設計部の主任をしていたものの,最近購買部へ異動になった。

 前田は若い設計者にも隔たりなく声をかけるようなキャラクターだった。そのためか,鈴木にとっても非常に親しみやすい存在だった。ただ前田が開発購買グループへ異動してからはほとんど話をする機会がなかった。
「前田さん,元気ですよ。今度のハイエンド機種の担当になりましたよ」。
「そうか,やり甲斐があるね。私は暇だよ。昔のように追いまくられていないからね。でも面白い仕事をやらせてもらっているよ」。前田のいいところは,あまり忙しぶったりしないところである。また昔から,与えられている仕事を楽しみながらやっているような様子をそこはかとなく漂わせている。

「前田さん,今日はネタ探しですか?」
「うん,常に情報収集。情報がないと商売にならないからね」。
「購買の部署ってどんな感じなんですか?」
「うん,そうだね。いまだに封建国家でお役所だね。開発購買グループは別だけどね」。
「でも田中さんみたいなバイヤーもいるじゃないですか。あの人は特別ですか?」
「うーんまあ,特別だよね,相当」。

「今開発購買グループって何人いるんですか?」鈴木が聞く。
「結構多いよ,10人かな? 日々増えているから歓迎会もちゃんとやれていないや。設計出身,購買出身,経理出身の三部署からの出身者が多いね。何だかわけ分からなくて,蝙蝠みたいだね」。前田が答える。
「ところで…,開発購買グループって設計部出身の人も多いじゃないですか。なのに,さっき田中さんが言ってたんですが,開発購買グループは設計者が必要な情報が分かっていないって」。
「ふふふ,相変わらず口が悪いね。田中さんも。ちょっと向こう行って話をしようか。時間大丈夫?」
「はい」。

平均年齢47歳の部署