消費者によるネット上の口コミ情報を実生活にフィードバックする取り組みは今後、防災分野だけでなく、他の分野でも次々と出現してきそうだ。

 私が社長を務めるホットリンクは2009年7月、日本のブログ利用者の書込みから先日の衆院総選挙の選挙結果を選挙区ごとに予測するサービス「クチコミ@総選挙」を公開した。分析技術は、前述の地震速報システムを開発した東大の松尾准教授と、同大工学部システム創成学科4年の末並晃氏が開発したものだ。

 まず、利用者が投稿した過去の選挙についてのブログ記事から、候補者の氏名や政党名などについての口コミを抽出する。その口コミ数などと実際の選挙結果の関係を分析し、モデル化する。このモデルに,今回の衆院選で投票日前日までにブログに書き込まれた口コミ数の動向を入力することで、選挙結果を毎日予測していったのである。

利用者の行為をシステムに取り入れる

 選挙前に朝日新聞が実施した電話による数十万人規模の世論調査結果との比較では、9割以上が一致する結果となった。世論調査に比べ、短時間で結果が得られ、低コストで済む口コミ調査は新たな活用を生む可能性を秘めている。最終的な選挙結果との比較では、全300選挙区の約8割に当たる241選挙区の当選者を的中させた。

 このほか,ブログの投稿記事から内閣府が発表する毎月の景気動向指数を予測したり、株価を予測したりと,この分野の研究は最近加速しており、かなり実用レベルに近づいている。

 これまでの“ものづくり”は、多くの場合,機器単体で閉じて設計すれば,十分に利用者のニーズを満たすことができた。しかし,利用者が携帯電話やパソコンを通じてネットワークで結ばれる環境が整いつつある。それに合わせて,ものづくりの発想を大きく変えるべき時代が近づいていると思われる。自社だけで従来の発想を超えることが困難なら,企業の垣根を越えた共同開発も取り組み方法の一つだろう。

 ヒト・センサは,利用者の行為を機器やサービスを構成するエコ・システムに取り入れる発想である。人間の行為をシステムの入力として取り入れる――。これを前提にした製品の企画・設計は,これまでの発想とは異なる概念の機器やサービスを生み出す可能性を秘めているはずだ。