次第に塊が薄く延ばされていく。
次第に塊が薄く延ばされていく。

 玉鋼を選別し終えたら、今度はそれらを「てこ台」の上に積み重ねて、火床(ほど)の中で「積み沸かし」を行なう。この工程で、細かく割った鋼をまとめて一つの塊にするのである。

 ちなみに現在、玉鋼は、主には島根県仁多郡奥出雲町にある財団法人日本刀剣保存協会の「日刀保(にっとうほ)たたら」1カ所でのみ作られている。それ以外にも、自分たちの微妙な好みや理想に合致した素材を手に入れるために、小規模なたたらを作るなどして自家製鋼を行なう刀匠や研究者もいる。だが、満足のいくものを作るのは相当に難しいようだ。
「結構、はやっていますよ。大学の先生方もやっている。藝大でも作りましたし」

延ばされた玉鋼を溝のある鉄敷(かなしき)の上で叩いて割っていく小割りの工程に入る。
延ばされた玉鋼を溝のある鉄敷(かなしき)の上で叩いて割っていく小割りの工程に入る。

 河内が非常勤講師を務める東京藝術大学でも自家製鋼を試みたことがあるそうだ。生鉄(なまがね:炭素量の少ない鉄)、鋼、銑(せん:炭素量の多い鉄)の入り交じった「けら(金へんに母)」ができることはできた。けれども炭素分が不足していたらしく、これを使って河内が刀を作ってみると、軟らかすぎて「刃が眠たくなってしまった」と言う。

 このようなときに使う加工技術に「卸し鉄(おろしがね)」というものがある。現在の玉鋼の一級品は炭素を1.0%から1.5%含有している。この炭素量が多すぎても少なすぎても刃物として使いにくい素材となってしまう。そんな炭素の量が不適切な鉄素材に炭素を含ませたり脱炭させて、刃物に適した鋼に作り変える工程が「卸し鉄」である。良質な鋼を手に入れることが非常に難しかったであろう近世以前には、刃物鍛冶たちにとって欠かせない技術であったと考えられている。