「インテル・インサイド」はおなじみだが、それと対になるビジネスモデルとして、「アップル・アウトサイド」があるという指摘が、この7月に発行された『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』という本の中の一節にあった(pp.64-105)。

 インテル・インサイドのビジネスモデルはよく知られているが、再度まとめると、まずMPUの中で、演算機能と外部機能をつなぐPCIバスなどの内部技術をブラックボックスとして押し込めつつ、外部とのインターフェースについては標準化を主導して、同社のMPUを前提条件にして完成品が設計される基盤をつくる。次に、MPUの周辺回路をチップセット化したプラットフォームを台湾メーカーなどに提供するのである。なお、同書ではこのプラットフォームのことを、「中間システム」と呼ぶ。それは、「基幹部品を完成品に組み込む際に、それがしやすくなるように組み立てられる中間部品」だからだという(p.71)。

 この「インテル・インサイド」では、部品が完成品をコントロールしている部品主導型だが、米Apple社のモデルは、完成品が部品をコントロールしているから「アップル・アウトサイド」と同書では呼ぶ。「インサイド」と「アウトサイド」---。共通点と差異点はどこにあるのか。

 一つの視点は、クローズな部分とオープンな部分を戦略的に切り分けているということのようだ。同書では、その切り分けている部分がIntelは部品レベルであるのに対して、Apple社は完成品レベルで行っていると見る(p.80)。

 Apple社が完成品主導モデルをとることができたのは、同社CEOのSteve Jobs氏が中心となってブランド力を上げ、アイデアやコンセプトが斬新だったためだが、クローズ・オープン戦略でも巧みである。例えば、「iPhone」のOS上で動くソフトウエア開発ルールを提供してオープン領域を設け、サードパーティーによるソフトの充実を図っている。

 これに関連して興味深い指摘が、完成品であっても「準完成品」として見ようということである。完成品レベルの「オープン」で分かりやすいのは、顧客の使い勝手などを考慮して周辺機器とのインターフェースなどを標準化することだが、それに留まらず、その「上位」を考えようということだ。例えば、「iPod」はネットーワークと「iTunes」という上位システムのサブシステムとして見ることもできる。そこをどうオープンにするかがポイントとなるようだ。つまり、「アップル・アウトサイド」モデルは、完成品を中核としてそこをクローズにしつつも、上位と下位の両方のレベルでオープン領域を設けている。

 このあたりはややこしいのだが、同書ではこうした状況を「レイヤー」で考える。Intel社は部品というレイヤーで主導権を握り、Apple社は完成品というレイヤーで主導権を握った。主導権を握れるかどうかは、他のレイヤーとどう協調するかで決まる。Intel社は上位レイヤーであるOS(Microsoft社)と連携し、Apple社は,前述のように、例えばiPodでは上位レイヤーのiTunes上のコンテンツ系サードバーティーと、下位レイヤーではOS上で動くソフトウエア系サードパーティーと連携した。

 日本企業は、同一業種の垂直統合型の企業がひしめきあって同一レイヤー上で切磋琢磨して品質を向上するのが得意であった。同書の著者である妹尾堅一郎氏はこうまとめる。「同一レイヤー上の協調と競争ばかりではなく、異なるレイヤー間の強調と競争とが、複雑に絡み合う時代に入っているということなのです。それをどこまで自覚できているのか。あるいは、それを逆手にとって優位なイノベーションイニシアティブがとれるのか、軍師と経営者の力量がますます問われる時代になったということなのです」(p.357)。

《訂正》当初の文章では、「iPhoneのOSをオープンにしてソフトを充実」と表現しましたが、正確には「OS上で動くソフトウエア開発ツールを提供してオープン領域を設け、サードパーティーによりソフトを充実」です。本文の関連部分は訂正済です。