弟子たちの振るう大鎚が、親方の指示によって的確に玉鋼を鍛っていく。
弟子たちの振るう大鎚が、親方の指示によって的確に玉鋼を鍛っていく。

 そんな日本刀が、存亡の危機に立たされたことがあった。第二次世界大戦後、連合軍によって日本は武装解除を申し渡され、その際に日本刀も没収の対象となったのである。それを受け、有志たちが立ち上がった。彼らの働きかけで、審査によって「正しく伝統的な製法で作られた日本刀である」ことが証明されれば、登録などの手続きを経て日本刀を所有することが可能になったのである。作刀も、許可制ながら昭和28年には解禁になった。

 それは、日本刀が単なる武器ではないことの証明でもある。たとえば現在、国宝に指定されている刀剣類は約110点にのぼる。これは全国宝1076点の約10%に当たり、工芸品252点の約40%を占める計算になる。武器ではなく文化財として、それだけの重みを占めているのである。現代に限ったことではない。日本刀はずっと昔から、道具でありながら美術品でもあり、さらにいえば神器でもあったのだ。

横座に座る親方は、玉鋼からひとときも目を離さずに仕事を続ける。
横座に座る親方は、玉鋼からひとときも目を離さずに仕事を続ける。

 世に「三種の神器」と呼ばれるものがある。本来は天孫降臨の際に天照大神から授けられ、歴代天皇が継承してきたとされる三つの宝物を指すが、その中に天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)がある。このほかにも、たとえばご神体として崇拝の対象となっている刀剣類は数知れない。このあまりに鋭利な刀に神が宿れば、必ずや邪なるものを両断し滅ぼしてくれると古人は考え、奉ったのだろう。

 こうして日本刀は生き続けてきた。今でも国内に300万振ほどは現存するとの推計がある。これらの大多数は審査済みだから、簡単な手続きさえすれば普通に所有もできる。