ときは鎌倉時代、元寇(げんこう)に際して日本刀の威力を見せ付けられた大陸諸国の人々は、戦後に日本刀を大量に買い占めたという記録が残っている。その史実にまつわる逸話として語られるのは、「馬の首を一太刀で切り落とした」「青龍刀や束にしたサーベルを見事に両断した」といった伝説である。
ごく近世の話もある。第一次世界大戦のとき、日本刀の優秀さを知ったドイツがひそかにその成分を分析、得られた結果を基にモリブデン鋼を開発し大砲などに応用したという。そんな史実に添えて語られるのは「100人斬ってもなお使えた」などというもっともらしいエピソードである。そんな伝説の中には、とても信じがたいものが多く含まれる。けれども逆に考えれば、そう表現したくなるほど、日本刀の性能を目の当たりにした驚きは大きかったということなのかもしれない。
海外にも、「岩に突き刺さるエクスカリバー」「鋭利で錆びないダマスカス鋼の剣」といった、刀剣にまつわる伝説はある。しかし、それらと日本刀伝説が一線を画すのは、日本刀は歴史の1ページに封じ込められた過去の神秘的遺産ではなく、現に今でもおびただしい点数が存在し、当時と変わらぬ製法によって作り続けられているということだろう。
だからこそ現代でも、テレビ番組で並みいる他国の武器を抑えて「世界最強の武器」として紹介され、「斬鉄剣」よろしくピストルやマシンガンの弾を斬る実験映像が流されたりする。刀匠は国内ばかりか世界各国に招かれ、製作を実演したりもしている。そんな世界的知名度ゆえに、刀匠に憧れを持ち、作刀を志す外国人も多い。実際に厳しい修業に耐え抜き、帰国し刀匠として活動している外国人が海外メディアで紹介されたりもしている。こうした点からいえば、武器という分類のなかにあって日本刀は、別格の存在感をもって人々を魅了し続ける稀有な道具といえるだろう。