創業したばかりの東大VCが事業計画を支援

 事業の資金調達で悩んでいたころに、東大がベンチャーキャピタル(VC)を設立するらしいと、友人が教えてくれた。そのベンチャーキャピタルとは、東大が唯一承認したベンチャーキャピタルである東京大学エッジキャピタル(UTEC、東京都文京区)だった。そして友人に紹介されたのが、現在の代表取締役の郷治友孝氏だった。エッジキャピタルは2004年4月に設立された。郷治氏は経済産業省(当時は通商産業省)を辞めてエッジキャピタルに移り、パートナーに就任したころだった。今振り返れば、幸運な出会いだったが、矢崎社長の事業化を成功させたいとの思いが呼び寄せた幸運な出会いだったといえる。

 矢崎社長は、郷治代表取締役からベンチャー企業の事業計画について、いろいろな助言を受けた。テラの事業計画を共同でつくり上げるという感じで、「多い時は1週間に数日も会って、事業計画を練り上げるためにあれこれ議論した」という。

 エッジキャピタルは2004年7月に「ユーテック一号投資事業有限責任組合」という投資ファンド(総額約83億円)を設け、その投資先の一つとしてテラを選び、2005年1月に投資した。この資金調達によって、テラは樹状細胞の培養装置などの設備やシステムなどを用意でき、矢崎社長は「事業化の準備がなんとか整った」と感じたころだった。

採用実績第一号には細胞の培養装置利用を貸与

 テラが提供するガン治療技術を病院などの医療機関の医療従事者に説明すると、決まって「まずは治療実績をみせてほしい」と言われた。日本のベンチャー企業の多くが直面する採用実績の提示を求める難問だった。自分では判断できないので、他社・他人での採用実績によって、採用リスクを低減する日本企業・機関の多くが持つ保守的な姿勢に直面した。

 このため、矢崎社長をはじめするテラの経営陣はある事業戦略を練り上げた。採用第一号の病院に、テラが持つ樹状細胞の培養装置などの設備やシステムを協力して利用してもらう貸与の仕組みを考え出したのだった。これによって、樹状細胞のガン治療技術を導入する当該病院は、初期の設備コストを抑えることができ、ガン治療を始めやすくなる。

 こうした事業戦略の下に、2005年5月にテラは東京都港区白金台にあるセレンクリニックと、樹状細胞を利用するガン治療技術サービスを技術供与する契約締結に成功した。同クリニックの医師は樹状細胞を利用するガン治療法の有効性を高める工夫や改良に熱心な方々だった。港区白金台は医科学研究所のある場所で、細胞プロセッシング寄附研究部門の研究者から技術面での助言を得やすい場所という利点もあった。

 採用第一号のセレンクリニックが樹状細胞を利用したガン治療を始めた結果、「やっと治療実績を蓄えることができ、事業が順調に進む」と、矢崎社長は思った。しかし、大問題に直面した。

 ガン患者の樹状細胞にガンの特徴を覚えさせるには、ガンそのものが必要になることだった。東大医科学研究所の臨床的研究ではガン患者からガンの部分を取り出し、これを患者本人の樹状細胞に与えてガン抗体情報を覚え込ませる過程を用いていた。ところが、多くのガン患者は他の病院などの医療機関でガンを摘出した後に、追加のガン治療としてセレンクリニックを訪れる方が多く、摘出したガンの部分が廃棄されて入手できないケースが多かったのだ。テラは樹状細胞に対象となるガンの抗体情報を覚え込ませる手段が無いという大きな課題に直面した。樹状細胞利用のガン治療の本質的な課題に直面しただけに、「この当時が企業存続の危機として一番苦しい時期だった」という。