実際に、ディズニーランドを運営していく際にも、この「国民性」に起因する事件がいくつも起きた。たとえば、写真に示すようなお菓子である。これら「人気キャラクター」をかたどったお菓子は、日本では大人気商品となっている。けれど、私が入社した当時は、その運用について本家のアメリカ側スタッフと意見が割れ、かなり激しい論議になった。

 私たち日本人からすれば、このような「何かをかたどった」お菓子に何ら違和感を抱くことはない。伝統的な和菓子には季節の花や文物を表現したものが多いし、庶民的な例でもたい焼き、人形焼、私の出身地である広島県のもみじ饅頭などは、人や生物、植物をかたどったお菓子である。これらを視覚的に楽しみ、あげくに食べてしまうという文化は、しっかり日本に根付いたものといえるだろう。子供のころから私たちはこんなお菓子を与えられ、「頭から食べようか、それとも尻尾から」などと頭を悩ませてきたのだから。

 しかし、そんな食べ方をアメリカ人スタッフは当初理解できず、キャラクターをかたどったお菓子の販売を許可しなかった。それを食べるということは視覚的に「崩れ、醜くなっていく」ことだと感じたのである。彼らによくよく話を聞いてみると、そもそもアメリカには食べもので何かをかたどったり、耳や口をつけてしまったりする文化はあまりないらしい。ハロウィーンのかぼちゃやイースターの卵など、食べ物に手を加えて装飾にすることはある。けれどそれはあくまで「装飾物」として楽しむものであって、食べることはあまりないようなのである。

 結局は日本側の主張が通り、多くのキャラクター食品が提供されることになった。ディズニーランドの「センターストリート・コーヒーハウス」というレストランではミッキーマウスの顔をかたどったパンケーキが開発され、朝食時だけの時間限定メニューとして提供された。結果は上々で、それを目当てに来店するゲストも多く、大人気メニューになったのである。この状況を踏まえ、それ以降もミッキーマウスなどをかたどったアイスクリームやワッフル、クッキーなどを開発し、提供することにした。