サービスの分野が違えば、効果的な推薦手法はもっと大きく変わる。

 ビジネス用品を売る通販サイトでは、水やコピー用紙のように同じ顧客が何度も繰り返し購入する商品が多い。この場合、顧客の購買履歴や消費ペースを勘案し、「そろそろなくなっていませんか」と提案する需要予測のロジックが必要だ。化粧品ならば「あなたは乾燥肌ですか?」「今のお悩みは何ですか?」といった、デパートの化粧品売り場と同じ対話型の商品提案が有効になりそうだ。

 購入する製品は決まっているが、最後の決断ができずに迷っている顧客が多い場合、「この商品を購入されたお客様からは、非常によかったという喜びの声をたくさんいただいてます」とか、「最近、この商品はすごくうわさされています」といった、口コミの評判分析やトレンド分析のロジックが効果的だろう。

「気が利く」仕組みは、リアル店舗と同じ

 顧客に商品を薦める行為は、すごいアルゴリズムが一つあっても解決できないことが分かる。サービスの内容やその時々の状況に応じた最適なアルゴリズムが存在するのだ。だが、かつての推薦エンジンは技術志向が強く、技術者が良かれと思った“すごい”アルゴリズムを、そのままシステム化し、様々な分野のサービスに「エイ、ヤッ!」と応用してしまう傾向があった。

 技術としては画期的で、確かに特定のサービスには極めて有効。でも、柔軟性が低いため、分野をはずすと「導入してはみたけれど…」という結果につながることが少なくなかった。「成功事例と同じものを!」という決断は結果的に高い勉強代を支払うことになってしまいがちなのだ。

 機械で気の利いた接客を実現するには、多様な仕組みを用意し、お客さんの状況に応じて提供する柔軟な対応力が大切。繰り返しになるが、その根幹にある「どうしたらお客様に喜んでもらい、購入につながるか」という気の利かせ方のアイデアは「ネットだから、機械だから違う」のではなく、実は人間による接客と同じだ。

 Amazon社のような成功事例がもたらした効果は、「こうすれば推薦エンジンの導入はうまくいく」という成功の法則を提示したことよりむしろ、推薦エンジンを使う利用者のリテラシーを高めたことかもしれない。以前は、機械に自分の好みを推薦されることへのユーザーの心理的障壁は高かった。だが、ユーザーが体験を積み重ねたことで、そのハードルはだいぶ低くなったように感じる。