推薦エンジンをビジネスに活用した先駆者として最も有名なのは、ご存じネット通販の巨人、米Amazon.com社だろう。同社が推薦エンジンを活用したネット通販サイトを立ち上げたのは1990年代半ばのことだ。「この商品を買っている人は、こんな商品も買っています」という方法で商品を薦める「協調フィルタリング」と呼ばれるアルゴリズムが代表例である。

 だが、Amazon社の成功がかなり話題になったにもかかわらず、推薦エンジンはすぐには普及しなかった。特に日本では、2000年頃の“ドットコム・バブル”の時期に大手通販サイトなどが数億円もするシステムで推薦エンジンを導入しようとしたが、継続的に利用されることはほとんどなかったのである。国内で本当に積極的な活用事例が出てきたのは、この2~3年ほどのことだ。

「気が利く」と「押し付け」は表裏一体

 普及に時間がかかった理由はいくつかある。

 まず、推薦エンジン導入の優先順位が低かったこと。私がホットリンクを創業した2000年当時、大手通販サイトに自社開発した推薦エンジンを売り込んだことがある。その企業は技術の価値を理解していたけれど、残念ながら採用は見送りになった。とにかく「ユーザー数や取り扱う商品数を増やすこと」が収益面での優先事項だったからだ。

 推薦エンジンを導入する最大の効果は、訪問した顧客の購入率、顧客1人当たりの購買単価や、サイト訪問のリピート率を高めることにある。その意味で、顧客数そのものを増やしたい時期には時期尚早という判断だった。当時は、他のネット・サービスでもほぼ同じ状況。システムの導入コストや、商品データベースの未整備、プライバシー問題といった課題もあり、推薦エンジンの導入にはハードルが多かった。

 だが、実はもう一つ、ヒトと機械の関係を考える上で大切な問題が見逃されていて、誤解が生じていたことも大きいと私は見ている。それは、推薦エンジンはうまく使わないと「気が利くもの」ではなく、「押し付け」になりがちだという点だ。

 今でこそネット通販は当たり前になったが、黎明期には、ネットでモノを買うという行為自体が未知の体験。それなのに、コンピューターがあたかも自分のことを知っているかのように商品を薦めてくる。ユーザーにとってそれが“ウザく”なってしまえば、逆効果につながる可能性が高い。かつては推薦エンジンの技術や運用手法が未成熟だったこともあり、「導入はしてみたものの、顧客の反応がよくない」ということが起こりがちだった。