「テレビでGoogle特集を放送してたから、録画しておいたよ」

 遅くまで仕事をして帰宅すると妻が気の利いたことを言ってくれた。さすが、インターネット業界で働く夫の興味をよく知っている。翌朝、眠い目をこすりながら食卓につくと、テーブルに並ぶのはフルーツだ。

 「疲れているように見えたから、食べやすいものにしておいたの」

 こんなに“できた奥さん”、ありえねぇよ。そうですよね、そう思いますよね? でもこれ、私の家庭の実話なんです…。

 連載2回目にして、のろけ話か! 読者の皆さんから、お叱りの声が聞こえてきそう。でも、ご容赦ください。この妻の応対は、ネット・サービスや家電などの分野で、これまで以上に重要性を増している、ある技術の将来像を示しているのだ。

機械でヒトの応対を代替できるか

 妻の応対は、どのようなロジックで成り立っているのか。もちろん、「何か裏がある」とか、そういう話ではない。注目したいのは、相手を心地よくさせたり、気が利くと感じさせたりする応対の不思議である。評判のホテルには、必ず優秀なコンシェルジュがいたりする。売り上げを伸ばす店には、商品を薦めるのが上手なカリスマ販売員がいる。

 では、このヒト対ヒトで成り立つ「気が利く」行動を、機械対ヒトで実現するにはどうすればいいか。カリスマ店員がさらりとやってのける応対を機械で実現するのは、そう簡単ではない。その実現手法の一つが、「リコメンデーション(推薦)」と呼ばれる技術である。

 最近、ネット通販や映像・音楽配信などのサービスでは、この技術を応用してお薦めの商品やコンテンツを提案するシステムの導入が活発になっている。「推薦エンジン」と呼ばれるシステムだ。ネット・サービスだけでなく、HDDレコーダーや携帯型音楽プレーヤーなどのデジタル家電でも、ユーザーの好みに合ったテレビ番組を録画したり、よく聴くジャンルの音楽を提案したりする機能が当たり前になりつつある。

 お薦めの商品を人間が効果的に提案する手法自体は、マーケティング分野で古くから系統立てて研究がなされてきた。お薦めを選択する思考を自動化し、人間に代わって提案する推薦エンジンの研究も古い。1980年代後半には、既に米MIT(マサチューセッツ工科大学)が電子メールやネット・ニュースを対象にした推薦エンジンを提案している。