環境の時代か,不況の反映か,それとも資源の枯渇か。時代はEV(Electric Vehicle),電気自動車である。自動車雑誌を開くとプリウスとインサイトの比較記事が目をつく。業界では,EV,ハイブリッド,プラグイン・ハイブリッド車をxEVと総称している。『日経エレクトロニクス』の最新号xEVの特集であり,力作である。

 もっとも,隔靴掻痒。もう一太刀。メーカーやマスコミの宣伝を素直に聞けないところに産業動向オブザーバーの存在意義がある。今回は電気自動車を俎上にあげてみよう。

 電気自動車が期待される技術であり,将来性が高いことは認めよう。それどころか,未来の技術の一つとして大きな期待を寄せている。しかし,ファンだからこそ贔屓の電気自動車に苦言を呈そう。いろいろ苦言はあるが,ここでは以下の三つに絞りたい。

(1)電池の問題
(2)電力供給の問題
(3)税収の問題

 まずは電池である。これから販売される電気自動車はLiイオン電池を使うだろう。ニッケル水素で問題となるメモリー効果がない。何より,充電量が多い。それでも,三菱自動車の「i-MiEV」は1回の満充電で公称160Kmしか走れない。高速道路は想定外。近場の利用,正に同社の「i」が担う,軽自動車利用の領域が主眼である。それでも,i-MiEVはの価格は450万円を越える。i自体の価格は100万円強である。先の日経エレクトロニクス誌では,250万円程度が電池代と読んでいる。妥当な見積もりであろう。

 さて,ご承知のように2次電池は充放電を繰り返すと劣化する。Liイオン電池はAV機器で,500回程度が寿命である。自動車では各種の技術開発により,10万Km,5年間保障と現行は公称されている。とはいえ,ガソリンエンジンと比べると,まだまだの域と言わざるを得ない。合わせて,砂漠や極寒の地を走行する場合はどうなるだろう。さらに電池代がかさむことを想定に入れなくてはならない。

 日産自動車も電気自動車の販売を計画中のようであるが,ここでは電池をレンタル制にすることも検討するようである(関連記事)。少なくとも,ここは日産自動車に習って,電気自動車の燃料代計算に電池の消耗品代を加えて計算しなければならない。

 次に,電力の問題である。電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車への期待は電気料金の安さである。特に夜間電力料金に対する期待が大きい。夜間が昼間に比べて安いのは,原子力発電の定常運転のためである。石炭やLNGなどの火力は割と自由に運転量を変えられるが,原子力発電では燃料棒の操作が必要である。できれば,一定で動かしたい。現在,総電力量の半分から3分の1が原子力発電である。だから,電力消費の少ない夜間に使っていただければ幸いということが電力会社の気持である。

 しかし,現在1億台使われている自動車が電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車になると,多くの人が夜間に充電することになる。ガソリンスタンドで販売しているエネルギーが電力会社から供給されることになる。

 これは当面無理だろう。2004年10月の中越地震により柏崎苅羽の原子力発電所が停止し,東京電力管内では電力事情が逼迫している。この先,オール電気とxEVが普及していくと原子力発電所を日本中に何基も設置しなければならない。どこの住民が受け入れてくれるのだろう。1996年に新潟県巻町では住民投票の結果,巻原子力発電所の建設計画が破棄された。

 3番目として税収の問題を上げた。揮発油税と地方道路税と,ガソリンには税金がかけられている。リッター100円強のガソリン代の50円弱が税金である。この売り上げで数兆円の収入が国庫や地方自治体に収められている。

 現在は,不況である。そのため,ばらまきと呼ばれるほど税金が使われている。現在でも税収不足であり,多額の国債が発行されている。xEVを始めとする低燃費車の普及は,税収の穴を広げる。ガソリンがダメなら,電気料金で。少し頭があれば,そう考えるだろう。どのような形になるかはともかく,低燃費車の拡大とともに電気料金が大幅に値上げされることは間違いないだろう。

 以上のことは,業界人の間では当たり前。困難を踏まえたうえで,xEVを始めとする低燃費車を普及させなくてはならない。しかし,それが消費者を裏切ることになってはいけない。税金の収支,エネルギーの収支,そして技術で可能なことと不可能なこと。これらをできる限り開示して,社会におけるコンセンサスを形成していく努力が地球や人類を救うためには不可欠である。私個人は,そのようにありたいと思うし,関係する皆様にも,ぜひ,当たり前の情報を啓蒙していかれることをお願いしたい。