第3回---有望な特許の出願は1日でも早く行った方が良い理由
景山先輩の助言もあり,何とか先行特許の調査をこなした樋口くん。先行特許の権利範囲に入らないように注意しながら,新規設計の構想を始めます。一晩中考え抜いて導き出したアイデアを基に概略構成図を作成し,作用や効果を資料にまとめて開発会議で発表したところ,意外なことに大絶賛。見事に採用され,設計者としての面目躍如です。ところが,上司の上木課長から「樋口の担当部分はすぐに出願しろ」と言われて,再び困ってしまいました。なぜこんなに早い段階で特許を出願しなければならないのでしょうか?
樋口くんは,自分のアイデアが採用されて「これから頑張って設計・開発を進めるぞ!」と意気揚々としているところに特許出願の話を出されてしまい「えっ? そんなの後からゆっくりやればいいのでは?」と思っているかもしれません。どうやら樋口くんは「特許出願は1日でも早く行った方が良い」ということを知らないようです。このことは,今後たくさん出願を行っていく設計・開発技術者にとって非常に大切な考え方なので,最初にこの点から説明しましょう。
「誰が一番早いのか」の基準は出願日
早く特許出願をするべき理由として,日本の特許制度では「先願主義」を採用していることが挙げられます。この「先願主義」とは,「複数の人が同じ発明をしたとしても,一番早く出願をした人のみが特許権を得られる制度」と解釈してください。この制度の下では,たとえ樋口くんが他者よりも早い段階でアイデアに思い至り,開発を進めていたとしても,他者の方が早く出願してしまった場合は,他者のみが特許権を取得できることになります。「そんな理不尽な!」と思う方もいるかもしれませんが,出願を受け付ける特許庁としては樋口くんがアイデアを思い付いた日がいつかなど知ったことではありませんし,それを主張したとしても立証するのが非常に難しいので,現実には特許庁に出願書類が提出された日を基準に「誰が一番早いのか」ということの判断がなされます。
他者が出願をしなかったとしても,他者が樋口くんと同じようなアイデアを思い付いて樋口くんの出願よりも前にWebサイトや雑誌などに書いていたり,樋口くんのアイデアのヒントになりそうなことを書いていたりした場合は,「新規性・進歩性がない」として特許を受けることができなくなってしまいます(新規性・進歩性は非常に重要な事項なので,後の回で詳しく説明します)。
以上のように,特許の世界においては,原則としてすべてが出願の時を基準に判断されます。これで「特許出願は1日でも早く行った方が良い」理由をご理解いただけたと思います。特に競争の激しい分野では,どこの会社も我先にと開発を進めており,技術が日々進歩していきますので,特に早期に出願する意識が重要です。
「ポンチ絵」程度でもOK
今回の樋口くんのケースを考えると,一般には製品の開発がある程度進んだ段階で出願することが多いですが,彼のアイデアがかなり斬新なものだったのでしょうか,上木課長はそのアイデアに将来性を見いだし,一刻も早く出願する必要があると感じたようです。技術者としては一刻も早く開発を進めたいところではありますが,自分のアイデアがそれだけ素晴らしかったと思って出願もきちんとしておきましょう。なお,特許出願というと,「完璧な設計図があって,試作品もバッチリ出来上がっていないとできないのでは!?」と心配する方がいるかもしれません。実際は,発明として特許庁に認められれば,ポンチ絵程度のものであっても特許を取得しているケースは多くあります。このあたりの判断は,社内の知的財産部や弁理士などに相談するのが良いと思います。
なお,上述の説明だけ読むと「では,アイデアを思い付いたら何でもすぐに出願すべきなのか!」という印象を持った方もいるかもしれませんが,必ずしもそうではありません。開発の初期段階で生まれた発明は,開発が進むにつれて効果があまり期待できないことが分かったり,実際の製品では用いないことになってしまったりする場合があるからです。また,特許出願や権利維持にはお金が掛かるため,他者がマネをしたくなるほどに価値がない発明は権利を持っていても仕方がないという考え方もあります。出願の可否や出願のタイミングは,上司などとしっかり相談する必要があります。
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