東芝は現時点で最高の電池を持ちながら、「嫁入り先」をまだ見つけていない。気がついたときには、主要メーカーはすでにパートナーを見つけた後だった。今後どこまでクライアントを獲得できるかは、競合メーカーがどのタイミングで性能的に追いつけるかで大きく変わってくる。ソニーは自動車分野で目立った動きがなく、長期的視野に立ち現在は様子見の状況なのかどうかを含め、戦略が見えてこない。ただしソニーはLiイオン2次電池を世に送り出した「元祖」で、現状でもLiイオン電池市場で世界シェア第2位(2008年)という実績を誇る。今後も動向から目が離せない。

 このような関係を模索しつつ、各自動車メーカーはLiイオン電池をベースとした電気自動車やプラグインハイブリッド車を相次いで発表している。こうしたなか、トヨタは新型プリウスでも引き続きNi水素2次電池を採用した。Ni水素2次電池の方がコストが安いという理由もある。だがそれ以上にパナソニックとの合弁会社で年間100万台規模の生産ラインを作るためすでに多額の投資をした後であったため、できるだけ使わざるを得ないというお家事情もあったのだろう。

 2次電池は一例だが、自動車業界は猛スピードで技術革新が進んでいく環境にまだ慣れていない。これまではほとんどの技術は積み重ねの上にあり、自分達の目の届く範囲で進化が進んできた。安全性が何よりも重要視され、新技術の採用には極めて慎重であった。これまでの競争は、あくまでも業界内での調和が保たれた上でのものであった。しかし、今後はそうもいきそうにない。Liイオン2次電池は発展途上であり、画期的な電池技術が今後どんな分野のどのメーカーから出てくるか分からないからだ。

「全体最適」できる体制

 自動車メーカーの力を借りずとも、エレクトロニクス・メーカーが独力で自動車を作ってしまうということも考えられる。実際、それを再認識させる事件が、昨年12月に起きた。中国の自動車用バッテリーメーカーのBYD社が、家庭用電源から充電可能なプラグイン・ハイブリッド車「F3DM」の量産を世界に先駆けて開始すると発表したのである。「F3DM」では最高速度160km/h、1回の満充電で100kmの距離を走行可能とされている。さらに今年2月には、デトロイトのモーターショーで電気自動車「e6」を出展した。最高速160km/h以上、航続距離は400km以上と発表されている。本当にこのスペック通りの性能が発揮されるのだとすれば、電気自動車は実用領域に入ったといえるだろう。