通常は10時の開園だが、当日は除雪作業のためにそれはあきらめ、ようやく開園にこぎつけたのは13時ころだったと思う。「そこまでやる意味があるのか」とあきれる方もいると思う。しかし、意味はあるのだと思う。実際、あるお客様がこんな声を上げられていたことを今でも鮮明に覚えている。「雪が全然ない!本物の西部開拓の町だ!」と。

 ディズニーランドでは、「私たちの仕事は、お客様が求めている以上のものを提供し、喜んでもらうこと」と教えられる。そのためには「見えない努力」でも、平然として取り組むことが求められるのである。

 こんなこだわりもある。ディズニーランド内のあちこちで見られるアメリカ国旗である。

 別名星条旗とも呼ぶその旗は、赤と青のストライプに星の入ったもの。この星といえば、皆さんも州の数を意味しているということはよくご存じだと思う。独立当時の1777年には、星は13個だった。ところが、州が一つ増えるたびに星を増やし、現在では50個になっている。つまり、国旗の星の数は合衆国の歴史そのものなのである。こうしたことを再認識しつつディズニーランド内の星条旗を見てみると、旗を揚げている場所によって星の数が違っていることに気付く。その場所のテーマに見合った時代の旗が揚げられているということになっているのだ。

 トムソーヤ島の砦の中にもある星条旗は、騎兵隊が活躍した時代の国旗で、星の数は15個。ウェスタンランドには、西部開拓時代にちなんで、その時代を表わす27星の旗が揚げられる。アドベンチャーランドには23星の旗もある。このように、星の数1つ、星条旗のデザインまでこだわり抜く。しかし、これに気付いたからと言って、直接的に何が生まれる訳ではない。そもそも、ほとんどのお客様は、国旗の星の数など目にも留めないことだろう。

 それでもやる。いつもやる。あらゆる場面でやる。それを貫けば、必ずお客様は分かってくれる。そう信じるのである。それは、投資効率や費用対効果が厳しく問われる今日のビジネス界にあっては、かなり異端な考えなのかもしれない。けれど、それがあるからディズニーランドはここまで愛され続けてきたのである。その事実を再度噛み締め、自戒せねばと思う。