たとえば、ディズニーランドのシンボルともいえるシンデレラ城である。昔はアサリなどの漁場で賑わった千葉県浦安の地に、突如としてあのお城を見つけた瞬間から、「日常」と隔絶された世界へと引き込まれてしまう方も多い。その城は、ディズニー映画「シンデレラ」に登場するお城を忠実に再現したもの。そのオリジナルも、フランスのベルサイユ宮殿などの宮廷建築、ロワール湖畔に点在するお城などの城郭建築を参考にしながら、細部までリアルに中世ヨーロッパの城を再現したものである。

 もし遊びに行かれる機会があれば、そのシンデレラ城を細かく観察してみていただきたい。高さ51メートルに達する城なのだが、よくみると、上になればなるほど小さくなるように作られているのがわかると思う。こうすることで、実際の高さ以上に大きな城にみえるようにしているのである。

 さらに面白い話がある。「スペースマウンテン」の建物があるのだが、普通に作れば、この方が高い構築物になってしまうのである。けれどもそうすれば、シンボルであるシンデレラ城の存在感を損なってしまう。このため、スペースマウンテンは基準階を地下に掘り下げ、地上部の高さを抑えているのである。普通に建てたほうが、工期、コストなどあらゆる面で有利になることは明らかだ。それを十分承知したうえで、それでも視覚的効果を重視し、あえて地下を掘り下げるというやり方にこだわる。それがディズニーランドのやり方なのである。

 もちろん、建物や設備を作る際だけでなく、日々の活動でも「徹底したこだわり」は発揮される。

 これは、私がまだ現場勤務だった頃の話である。前夜から関東地方に大雪が降り、その日の早朝には30cmほどの雪が積もった。もちろん公共交通機関は全面ストップの状態で、東京は大混乱していた。そんななか、私が出社したのは朝の4時。この状況にどう対応するのかと不安を抱いていた私たちに伝えられたのは、アドベンチャーランド、ウェスタンランドの全面除雪の決定だった。「え、全面除雪?」。耳を疑ったが、どうやら本気でやるようだ。理由は簡単。「南国の冒険の国(アドベンチャーランド)や西部の町(ウェスタンランド)に雪があるわけないでしょう」というのである。

 結局、200~300人ぐらいのスタッフが約6時間をかけ、建屋の屋根上から雪を落とし、南国のヤシの木に降り積もっている雪も高所作業車をフル稼働させて除雪した。大変だったのは地面の除雪である。大型トラックを乗り入れ、ベルトコンベアを使って雪を荷台に積み込むのだが、その作業はすべて人力なのである。真冬なのに、みな大汗をかいていた。