ミッキーの十戒シリーズ、4回目は「Create a wienie」である。直訳すれば、「ウィンナーソーセージを創れ」。これだけでは、何のことだかさっぱりわからない。

 実はこの訓戒は、ウォルト・ディズニー氏が、十戒の作者であるマーティン氏を含めたイマジニア(創造的開発者)達に向けて放った言葉から引用されている。時は1964年、ニューヨーク万博の開催に向けディズニーのイマジニア達は、あるアトラクション・セットを作っていた。そこにウォルト氏がふらっと現れたのである。

 イマジニア達がセットを製作するときは、それぞれのシーンごとに絵を描いてイメージをスタッフ全員で共有化することから始める。ストーリーボードいう、元々は映画を製作する際によく使われる手法だが、必ず、この手法を用いる。そして、それらを具現化していく。そしていつもその絵が本当に現実の世界に出来上がってしまうのだから、彼らの技術力と細部にまでこだわるプロ根性には驚かされる。

 話をもどすと、万博のために製作していたそのセットは、アメリカの一般家庭の生活をリアルに再現したものだった。大きなリビングルームに、大きなソファーやテレビをセットし、団欒を演出するため1匹の犬も寝ころばせておく計画だった。イマジニア達は、その製作工程がすでに完成段階に至っていたため、ウォルト氏にいつ最終チェックに入られても大丈夫だと高をくくっていた。その彼らに、ウォルト氏はこう言ったそうである。

 「犬がちっともいきいきとしていないじゃないか。決まりきったような犬を、ただ置いてみてもダメなんだよ。例えば、犬と言えばウィンナーソーセージ(ホットドッグという言葉があるように、犬といえばソーセージを真っ先に思い浮かべるお国柄である)。そんな、その犬が映える、こだわりを感じられるもの置いてみなさい。観客はそれを見つけ、製作者の細部までこだわり抜く姿勢に気付く。そして、とても嬉しくなるんだよ」と。

 このエピソードを知れば、「wienie(ウィンナーソーセージ)」とは、それ自体は些細なものであっても、他のものを補完し、その場の空気を濃厚にし、より魅力的に演出するものの代名詞であることがわかる。すなわちこの訓戒は、表面上は視覚的効果の重要性を説いたものであるが、底意としては、「そこまでやるか」と観客にあきれられるほど、こだわって、こだわって、こだわり抜きなさいというメッセージなのである。

 ディズニーランドには、こうした工夫がちりばめられている。その多くはパッと分かるものではない。けれど、知れば「そこまでやるか」と感心するものが実に多い。