向かって左に座った茂がまず一度塵を取る。それを、右隣の宮子がもう一度確認する。二人の背後にはパネル型の電熱ヒーター。小脇にある七輪の上には,湯を張った鍋があって、流水で冷えた手を時折入れて暖を取る。

 冷水に浸かった皮を素手でほぐして開き、繊維の隅々まで目を配る。高齢者に優しい作業ではない。だいたい朝の8時からはじめて、だいぶ日も伸びた3月下旬の今は、夕方4時半ごろまで続ける。それでも、一日に処理できるのは「さな」でさらした白皮の半分くらいという。すべての原料を人手で二度も確認するなど、大量生産する紙ではありえない。けれどもこの地では、他に方法はないのである。「最近はチリについて問屋がうるさくて」とぼやきながらも、二人はひたすら白皮に目を走らせる。

 こうして人手で丹念に整えた材料を待っているのは、いよいよ紙漉きの工程である。(文中敬称略)