紙胎漆塗彩絵華籠(したいうるしぬりさいえけこ)。
紙胎漆塗彩絵華籠(したいうるしぬりさいえけこ)。木型を用いて和紙を成形し、漆を塗布して固めたもの。鎌倉時代の作。華籠は、法要に使う花を入れる仏具。

 社会の仕組みが変われば、かつての文化が廃れるのは世の常である。もちろん、鈴栄経師の手によるような「ハイエンド」の日本文化は残り続けるだろう。そこには和紙が生きる道が確かにある。しかし、普通の暮らしの中に溶け込んでいた日本の技に接する機会は、確実に減っていく。しかもその敷居は、工業製品の価格低下と比例するかたちでどんどん高くなっている。和紙そのものや和紙を使った製品は、今ではちょっとした贅沢品だが、それはいずれ文化財級の貴重品になってしまうのかもしれない。大因州製紙の塩宏介は「現在和紙が使われている用途のほとんどは、洋紙でも足りてしまう。本当に和紙でなければならないのは、古文書の修復くらいでは」と嘆く。

 そんな逆境下にあって、四国の山間にほぼ昔そのままの方法で紙をつくり続ける一家があるという。和紙の今を知り将来を占おうと、そこを訪ねた。(文中敬称略)