ディズニーランドはいわば装置産業であり、毎年のようにスクラップ&ビルドを繰り返し、リニューアルを続けなければならない運命にある。こうした中にあってその当時は、いわゆる「アイデアの頭打ち」状態にあった。そのため、マンネリ化したショーやイベントが続いていたのである。その停滞感を一掃すべく「これまでにない斬新なショーを考えよ」との号令が飛んだ。それを受け動いていた部署が新たなショーを企画、それを「前例のない」、20時30分に花火を打ち上げた後の時間帯に敢行したのである。

 結果は悲惨だった。ゲストの流れがバラバラになってしまったのである。さらなるエンターテイメントショーが始まるや、わき目も振らずに見に行くゲスト、逆にショーを気にしながらも不本意ながら土産物を買うためにショッピングへ向かうゲスト、親子が離れ離れになってその両方をこなそうとするファミリーなどなど。ゲストの流れは分散され、何とも「中途半端」な光景であった。しかも、ショーを見た人はショッピングをじっくり楽しめなかったことに不満を覚え、ショッピングを優先した人はショーが見れなかったことを悔やみ、ゲストの満足度は低下した。物販での売り上げも減り、逆にショーのためにコストはかさみ、結局何もいいことはないという悲惨な結果だった。

 この失敗は、創り手の論理を押し付けることの危うさと、「人とアイデアの流れ」を把握することの大切さを教えてくれる。それ単独でみればどんなに素晴らしいショーであっても、どんなによくできたイベント、設備であっても、それが人とアイデアの流れを乱す時間や状況で行われてしまえば、結局はマイナスの効果しか上げられないのである。

 創造的エンジニアという業種は、その作業の中で、ついつい「創り手」の論理で作業を進めてしまうことが少なくない。ディズニーランドでもそう。自身も創造的エンジニアであり、それを熟知しているからこそマーティン・スカラー氏は、この教訓をあえて後輩たちに与えたのではないかと思うのである。