その花火が打ち上げられるのは20時30分。毎晩、必ず20時30分に上がる。その時刻設定に、花火に込められた意図を知るヒントがある。実は閉園時間は通常22時で、その1時間半前に花火が上がる仕組みになっているのだ。

 ディズニーランドのミッションは、「ハピネス(歓び)を提供する」こと。つまり、楽しかった、来てよかった、ちょっとオーバーに言えば生きていて良かったとゲストに実感していただくことである。それを感じていただくために重要なのは、格闘技でいう「ラスト30秒」で何をするかということ。その一つが花火だといえるだろう。20時30分にもなれば、多くのゲストは、先送りしていた「お土産」のことが気になり始め、出口の方向を意識しながら移動を始めていることだろう。こうしたゲストたちがドンドンという音で思わず振り返す。すると、鮮やかな花火。その七色の光が、ディズニーランドの象徴であるシンデレラ城のシルエットを闇から浮かび上がらせるのである。

 その光景をしっかりまぶたに焼き付け、後ろ髪を引かれる思いでゲストは出口方向へと進んでいく。そこで出会うのは、ワールドバザールという大店法の認証を受けた規模のショッピング・アーケードである。ぬいぐるみはもちろんのこと、お土産の代表品である菓子類、Tシャツなどの衣服類、文具などテーマパーク内のほとんどの商品をそこで買うことができる。日本人に限らず、お土産を買うことはゲストにとって大きな楽しみ。ディズニーランドからすれば、物販も収入の大きな柱だ。もちろん、このことを熟知しているからこその8時30分。花火は、閉園が間近であることを知らせる合図でもあるのだ。

 それを見た観客が初めて閉園時間を意識し、ゆっくりと店舗に向けて移動したとしても、約1時間はショッピングの時間が残されている。そこであれこれ物色していると、おもむろに「もうすぐ閉園です」のアナウンス。それをキッカケにショッピングはいよいよラストスパートに入る。

 そして、いよいよ閉園。両手にお土産や風船をかかえ帰路へと就くと、「星に願いを」のテーマソングが流れ始める。出口を離れてもかなりの時間、それが聞こえるように仕組まれている。そのメロディーが最後の最後、ディズニーライドの想い出を締めくくってくれる。

 こうした仕掛けが「人とアイデアの流れ」を完全に把握した上で巧緻に構成されていることをつい忘れ、大失敗を犯してしまったことがあった。状況に流され、原点を忘れ、失敗してしまったのである。