そんな状況下の4月10日、何通もの退職の挨拶メールが届いた。聞けば、関連会社の整理などリストラを進めていたOKIセミコンダクタの、生き残った正社員の半分以上に当たる700人がついに職場を後にすることになったのだという。そちらに移っていた研究所時代の友人知人の大半も、この日をもってOKIを去ることになった。残ったメンバーも近く、他の事業所や関連会社などに移る予定なのだとか。「八王子は更地にして売るんだって。マンションにでもなるんじゃないの」という。更地になるかどうかは分からないが、かつてはOKIにあって半導体事業の中核であり、今やOKIセミコンダクタの心臓部でもある八王子事業所が、近く消滅することになるのは間違いなさそうだ。

買ってみて分かったこと

 これはちょっとした事件である。「誰かの暴言で譲渡先の社長が激怒して」などと人はいうけれど、そんなことで経営者がこれだけ重大な判断を下すものなのだろうか。最初からツブす気だったとは、もっと考えられない。土地を売却した程度で1000億円近い投資が回収できるはずもないからである。

 おそらく、数々の美点とメリットをそこに見た。だからこそ買収交渉を進めたはずである。そして買った。買ったら、大不況がやってきた。もちろん、それも事業所廃止の大きな要因となっただろう。けれど、本当にそれだけなのだろうか。ロームは、内部留保(利益余剰金)が8000億円とも7000億円ともいわれる「お金持ち」な企業。事業の組み換えやロームが培ってきた経営ノウハウの注入などで短期に収益を改善できると見込めば、それくらいの期間、持ちこたえる体力は十分にあるのではと思う。

 それでも、あきらめた。あきらめて大半の技術者を整理、本拠地まで手放すという大手術を断行した。なぜなのか。先に書いた美術品の話ではないけれど、買ってみて初めて「あ、こりゃアカンわ」という致命傷に気付いたんじゃないか。新会社設立からわずか半年という、それこそ「放言に激怒したから」とでも説明したくなるほど早い心変わりに、何となくそんな邪推をしてしまうのである。

質疑応答という文化がない

 「そう思うわけよ。だとすれば、その致命的欠陥って何だと思う?」。そう、当事者や周辺の関係者に聞いてみた。有望な事業の芽がないとか、経営判断が遅いとか、いや、いろいろ出た。どれもこれも「そうかも」と思えるものではあるが、なんだか小さい。「なんか、もっと本質的なことだと思うんだけど」と突っ込んでみると、「ああ、これかも」とある友人がこんなこと言いはじめた。「ものが言えない」というのである。