もし通貨量を増やしても通貨価値が下がらないのであれば、国富を2倍3倍にするのはたやすいことである。自らに借用書を書くような「錬金術」で財源を作るような方法が今後も続けられるなら、わざわざ国民から税金を徴収する必要などないだろう。もちろん、そうはいかない。だから、自国の連邦銀行に国債を買わせるという不可思議なことをやらざるを得なくなる。そうしないと長期金利が上昇してしまうからだ。もちろん、他国や一般国民はもっと高い金利を付けないと買ってくれない。それが経済原理に基づく本来の姿なのである。

 つまり、米国が今やっているのは、金利を上げずに通貨量だけを増やすという「量的緩和」である。それは、一見すると魔法のように素晴しい政策に思えるが、そのような経済原理に反する政策が長く続くとは思えない。米国といえど無限に借金できるわけではない。やがては信用低下によって行き詰まるのは明らかだ。

米国が支払不履行に?

 各国は外貨準備として大量のドルや米国債を保有している。国際通貨基金(IME)の推計によれば、世界各国の外貨準備は2008年末時点で6兆7100億ドル、通貨構成が公表されている分(4兆2000億ドル)のうち64%はドルということである。

 ドル安傾向が明らかになれば、資産の目減りを防ぐために各国はできるだけドルの割合を減らそうとするのは当然だ。実際、ドルの比率は年々下がり続ける一方、ユーロやルーブル、元などの他の通貨が存在感を高めている。特にユーロは世界の外貨準備に占める割合を、26%まで伸ばしている(2008年現在)。中国(元)やロシア(ルーブル)も国際通貨としての地位を狙い、最近は経済圏を広げつつある。このような状況で市場にドルがあふれれば、ドル安を一層加速することになる。いつ、ささいな不安心理をキッカケとしたドルの投売りが起こっても不思議ではない状態なのだ。

 これまでは、ドルが基軸通貨であるが故に米国はデフォルト(支払不履行)にはならないとされてきた。国際的に一番信用が高い通貨なのだから、足りなければ発行量を増やせばいいということである。そのため、米国はあまり外貨準備を持っていない(2008年末現在で740億ドル、日本の1/10以下)。

 ドルが不安定もしくは下落傾向が明らかになると、為替リスクを嫌って決済でも「ドル離れ」が広がり始める。米国と言えども、ドルの信用低下で外貨での決済を求められるケースが増えれば、デフォルトになる可能性はゼロではなくなる。現実には、金融不安をきっかけに各国間で外貨を融通し合う仕組み作りが進んだため、デフォルトにまで至る可能性は極めて低い。それでも、ドルの国際的地位が徐々に低下していくことは確実だろう。中長期的には地域通貨の一つに過ぎなくなると予測している。