第2に、米国が「投資家」から「労働者」に立場を変えたということがある。米国が投資家であれば、自国通貨の価値は高ければ高いほどよい。「ドル高」が国益に叶うのである。だが製造業を主軸に据え労働者に変身するのであれば、輸出競争力を高めるため何としてもドル安にもっていく必要がある。米国政府は、ドルを湯水のように発行することに伴うドル安を容認しているというより、むしろ積極的に誘導しているというのが実態だろう。

 第3の大きな理由は、各国で本格的な「ドル離れ」が始まっているということだ。これまでドルが基軸通貨であり続けられたのは、「ドルがあれば何でも買えた」からである。だがその前提はすでに崩れている。例えばロシアの石油を買うためにはルーブルが必要であり、イランの石油決済はユーロもしくは円建てである。ドルは基軸通貨としてドルの信用が低下しているだけでなく、万能な通貨でもなくなり始めている。

ドルの価値は下がり続ける

 過去の為替相場を振り返ってみれば、1971年には1ドル=360円の固定相場でだったものが「スミソニアン協定」で308円へ切り下げられた。さらに73年になると変動相場へと移行、85年ころまでは200円~250円の間で動いてきた。90年に入るとドルは急落、93年ころまで130円~150円前後で推移してきた。94年~95年にかけてには一旦80円~90円台という円高のピークを迎えた後、昨年の前半まで10年近く100円~120円の安定した相場が続いてきた。大きなトレンドとしては、ドルの価値は下がり続けているのである。1ドル=360円の時代が再び戻ってくると信じている人はまずいない。ドル相場は「サイクル」ではなく、基本的には「政策的意思」で決まるのだ。

 米国という国は、これまで2倍の経済成長に対して4倍も5倍も通貨を発行することで成長を続けてきた。多少インフレになっても通貨を潤沢に流通させた方が、経済は活性化するという「意思」である。さらに一部は「外貨準備」として各国で退蔵される。使われないで死蔵されればその分はいわば「丸儲け」になる。基軸通貨ならではの旨みである。

 だが通貨は、量が増えれば増えるほど価値が薄まるのは当然である。ジンバブエのように1米ドル=2億5000万ジンバブエドルになってしまうような、極端なインフレになった例もある。ドルに関していえば、少なくともこれまでの歴史ではなかったようなハイペースでドルが増えている。これだけ急に流通量を増やせば、ドル安にならない方が不自然なのである。