だが土地の値段はゼロにはならない。だからいずれ地価は下げ止まり、景気が底を打つのは間違いない。だが商業用不動産を含めて「もう土地を買っても大丈夫」という安心感が広がるにはあと3~4年はかかるだろう。つまり景気が落ち着くのも3~4年後ということになる。過去の例でも、経済が構造的に変わる時には4年程度の下り坂が続いている。さらに経済が完全に立ち直るまでには、おそらく10年位は必要になるだろう。

 レポートでは、この不況は「構造変化に起因するもの」と規定した。そうであれば、景気サイクルのように「じっと耐えていればやがて回復するもの」ではない。

 この「構造変化」を別な表現をすれば、「米国という唯一の買い手がいなくなり、世界経済は新しい均衡点を求めてカタチを変える」ということであろう。90年代後半から米国は、世界中から投資を集め、それを自国を含めて世界中にばら撒くという役割を担ってきた。国際経済の中で、米国という国全体がいわば「投資銀行」としての役割を果たしていたのである。

 だが金融危機後、主な投資銀行は破綻、買収、あるいは商用銀行へと鞍替えし、投資銀行という業界そのものが消滅してしまった。また元のように世界中から投資マネーを集めたいと思っても、物理的に不可能なのだ。米国の赤字によって各国が潤うという経済モデルが終わった、という現実をまず直視しなければならない。

2、3年内に1ドル=60円台へ

 今の状況がこのような「構造変化」に起因するものなら、この2~3年で急激にドル安が進む可能性が高い。ドルの過去最安値は1994年の1ドル=79円であるが、1ドル=60円台というのはかつて経験がない、新次元でのドル安時代を迎えるという意味である。その結果、世界経済のパワーバランスは大きく変わるだろう。

 ドルが急落するという根拠はいくつかある。

 まず第1に、米国が「ドル紙幣を刷りまくっている」から。ドルの現金通貨量は2008年8月から12月のわずか4カ月で8000億ドルから1.6兆ドルへと倍増した。だが1国の決済に使われる通貨量(流動性)全体を測るには、現金だけではなく譲渡性預金(CD)、準通貨と呼ばれる定期預金や外貨預金などを含めて見ていく必要がある。専門的には「M3」と呼ばれる指標である。だが2006年4月以降、米国連邦準備制度理事会(FRB)は「M3は不要」と公表をやめてしまった。これは米国がどれほど危機的状況にあるかを端的に物語っている。2006年というのは米国の経常収支が急速に悪化、1兆ドル超える赤字を記録した年である。あまりにも通貨が増えていることが公になるとドル暴落が起こりかねない、というのが本音だろう。