米国で極端な景気低迷が起こるというシナリオ自体は、レポートの予測前提としてかなりの部分を盛り込んでいた。「自動車産業2009-2025」というレポートの作成に着手したたのは2008年の1月。その時に編集者との間で議論を交したのは、「このレポートを今出すべきか」ということだった。内容の問題ではなく、このレポートを出す頃には米国でバブルが崩壊し、予測の前提が大きく変わっているかもしれないという懸念が強くあったからである。

 レポートを発刊した昨年8月時点でもまだ問題は顕在化していなかったため、レポートの中では米国の景気後退が本格化するのは2010年ころと設定した。その時期は若干ズレたものの、サブプライム問題の深刻化→金融機関の破綻や身売り→ドル・株・金利の「トリプル安」を経て景気低迷に突入するというレポートで提示したシナリオは、まったくその通り現実のものとなった。

 当時予測していたのは、夏ころまでに85円程度までドル安が急速に進み(実際には昨年12月に87円前半が最安値)、ドルベースでの物価は高騰、株安と金利安が同時に進行、米国は未曾有の不況に突入するというシナリオであった。だが為替相場は過去10年近く1ドル=100円~120円の安定した水準が続いてたため、こんな話をしても最初は周囲も半信半疑であった。

 大幅なドル安や長期の不況が始まると予測した根拠はいろいろあったが、最も注目したのは米国の地価上昇に頭打ちの兆候が出てきたことだった。米国でGDPの約7割を個人消費が占めており、それは主に不動産価格の上昇を見込んだオーバーローン(過剰融資)に支えられてきた。低所得者層にも住宅が購入できるようにするサブプライムローンはその典型だろう。逆に不動産価格が下落に転じれば、金融機関における住宅ローンの延滞や焦げ付きが始まり、個人消費が冷え込むのは自明の理だったからである。

 1年前にはビック3の業績低迷について度々取り上げられてはいたものの、GMは相変わらず世界ナンバー1の座を占めていたし、日本の自動車業界は絶好調だったのである。2008年11月ころでさえ、各企業の研究会で「GMやフォードが破綻に追い込まれる可能性がある」という話をしても、それを真面目に受け止める人はほとんどいなかった。わずか半年前のことである。

完全復活までには10年

 しかも、米国経済は長期に渡って低迷が続くことになるだろう。理由は単純である。不動産価格の下落が続く限り金融機関での損失処理は終わらないからだ。

 米国における不動産ローンはほとんどが「ノンリコース」と呼ばれるものであり、万一返済不能になった場合は対象不動産を手放せば債務から逃れられる。損失は最終的に金融機関に回る仕組みであり、これは商用不動産も同じである。不良債権処理はまだ半分程度で、当面は続くとみるべきだろう。