2008年度は28年ぶりの貿易赤字

 財務省が4月22日発表した「2008年度の貿易統計速報(通関ベース)」によるとわが国は「輸出国」でなく、「輸入国」になりました。輸出額が輸入額より7253億円も小さくなってしまったのです。これは第2次石油危機直後の1980年度以来28年ぶりの貿易赤字となります(輸出額は71兆1435億円、前年度比16.4%減少。輸入額は同4.1%減の71兆8688億円)。

 貿易赤字の原因を新聞などでは、世界的な金融危機に伴う欧米需要の悪化で自動車や電機の輸出が急減したためとされていますが、私はこの貿易赤字は定常的なものになるのではないかと心配しています。

シャープは日本を捨てる?

 その心配の原因のひとつが4月9日の「フィナンシャルタイムズ」の1面を飾った記事です。シャープがコア製品の生産までも海外に移転しようとしている、という内容でした。

 記事のポイントを書くと

  • シャープは、円高とコスト削減を進めるため、「地産地消(local production for local consumption)戦略」を進める。他のメーカーもこれに追従すると日本の輸出に依存した経済の根本的な変化につながる可能性がある。
  • シャープは、為替変動、投資資金ニーズ、貿易障壁、低い労働コストや政府補助の恩恵を受けたライバル企業との競争などに対して、もっと強くなるビジネスモデルを構築する(Sharp said its new business model would make it less vulnerable to factors such as fluctuations in the yen; the need for huge capital investments; trade barriers, or competition from foreign rivals with lower labour costs or access to government subsidies)。

 今まで日本企業は「最先端の製品を日本国内でつくり、普及品になったら途上国で大量生産する」というモデルを採用してきました。少なくとも私はそう認識していたのです。しかし、それはもう崩れかけているのでは。そう思わせる記事でした。

 確かに製造業が絞り出した利益は為替変動で一瞬に吹き飛び、しかも国内ではCP(企業が金融市場から資金を調達するための無担保の約束手形)や社債は発行しにくくなっています。その一方で、中国や韓国、台湾の行政機関は製造業への支援をどんどん打ち出しているのです。

 このような状況を踏まえれば、今回の貿易赤字化は、海外需要の減少だけが理由ではないと私には思えるのです。各社の事業報告が発表されれば正確なところがわかると思いますが、この不況を契機にわが国の製造業は海外シフトを加速させているはずです。例えば、国内での設備投資や開発投資は減らしていても、海外での投資はむしろ増やしているのではないでしょうか。