しかしまだまだ心配なことがある

 それはデジカメのデータに限らない。すべてのデジタル・データについて共通の問題である。

 子どもが生まれると,デジカメかビデオを買うだろう。その子が結婚するぐらいまでは,すなわち,20~30年はそのデジタル・データを保存したいと思うのが親として普通だろう。

 ところが,過去20年間のメディアの進展を考えてみると,たった20~30年間程度の期間でも,絶対確実にバックアップをしようとしても,それが難しいことがすぐに分かる。

 8ミリビデオ・テープを使うビデオ・カメラが発売されたのが1985年である。通常のビデオの標準化戦争であった「Beta-VHS戦争」の後を継ぐ形で,VHS-Cといった規格との戦争も起きたが,結局,8ミリビデオが勝利した。それが決定的になったのが,1992年にシャープが発売した液晶ビューカム以来だと言われている。しかし,その後,1995年にminiDV規格のテープを使うデジタル・ビデオが発売され,8ミリビデオは急速に衰退した。画質が悪かったからであろう。

 8ミリビデオをキーワードにしてGoogleを検索すると,8ミリビデオをDVDに変換するという多くのサービスが行われていることが分かる。しかし,このDVDもメディアが何年間持つのだろうか。

 しばらく前のCD-Rは,太陽の光に直接あてると染料が変質し,読み出せなくなるものもあった。というよりも多くのものがそうだった。CDもDVDも基板はポリカーボネートというプラスチック,すなわち有機物である。その他,使用されている保護膜なども有機物である。

 有機物で長寿命のものは,紙でありそして生命である。生命は,細胞を構成している分子のような要素は作り変えながら,全体として維持できるという仕組みになっている。人間の体も分子レベルでみれば,どんどんと作り変えられながら維持されているから,100年近く持つのである。しかも,分子は変わるのに,過去の記憶のようなものは維持されるのだから,これはきわめて高級なシステムだと言わざるを得ない。

 紙はセルロースからできている。セルロースという物質は有機物でありながら,場合によると1000年といった寿命を持つ木の構成要素であるだけに,極めて寿命が長い。多くの有機物が苦手としている太陽光にも十分耐える。それは,木という生命が,太陽光を吸収して光合成をし,それによって成長するという機能を身につけたからだろう。寿命の短い駄目な材料を使った樹木は,自然淘汰されてしまったものと考えられる。

 われわれが現在もっとも普通に頼りがちであるDVDだが,形式はどんなものであっても,どうみても20年間絶対にOKということはない。むしろ,昔ながらのVHSのビデオ・テープの方がアナログ方式なだけに,20年後にもなんらかの像を出す可能性は高いのではないだろうか。もちろん,そのときにVHSの再生機器が手に入れば,という条件付きであるが。

 HDDに依存することもかなり危険である。しかも,デジタルのインタフェースの規格は,次々と変わってしまう。しかし,データの量や今後の継承などを考えると,現時点における現実的な解としては,やはりUSB2.0対応のHDDを3年間程度で買い増ししつつ,そこに貴重なデジタル・データを複数並列で貯めることだろう。

 となると,20年後には,7台程度のHDDが残っていることになってしまう。いやいや,何台かは壊れているだろう。しかし,全体としては,なんとかデータが20年後にも残っているのではないだろうか。

 SDなどの半導体メモリーはどうだろう。恐らく,ではあるが,HDDよりもデータが消滅する危険性が高いのではないか。半導体も,強い放射線を受ければ,それで終わりである。電気的なノイズでも駄目になるかもしれない。