「トイ・ブルーム(おもちゃのほうき)」という呼び方も,その一つではないかと思う。トイ・ブルームとは,テーマパーク内でいそいそと清掃しているカストーディアル(清掃スタッフ)が持つほうきのことである。その「ほうき」を「トイ・ブルーム」と言い替えれば,地味な単純作業という「掃除」の暗いイメージがいささかでも払拭できると考えたのだろう。

 そう考えてみると,ほうきの使い手をたばねる「カストーディアル」という部署名も,一般ではあまり使用しない言葉の使い方である。カストーディアル,英語でつまり「保管,管理,保護」を意味する言葉で,直接的に「清掃」という行為を指す言葉ではないのである。すなわちディズニーランドの清掃を担当するスタッフは単に掃除をしていればいいわけではなく,いわば「美の管理人」としての責任を負っている,ということを伝えたかったのかもしれない。それゆえに,常にトイ・ブルームで路面をひたすらに掃き続け,小さなゴミまで見つけ出し,さりげなくダストパン(ちりとり)に掃き入れ,1日に何度も同じ質問をされても,あたかも初めてかのように初々しく,しかもにこやかにレストルーム(トイレ)の位置を案内し続けることができるのだと思う。ちなみに,かつてその職務を経験した当事,私は1日でも最低30回は,笑顔でレストルームを案内していたものだ。

 皆さんの中にもこんな経験をお持ちの方がおられるのではないだろうか。わが子が生まれるとき,一生懸命になって「最高の名前」を考えたことが。自身の分身でもあるが故に,それこそ必死になって,あれやこれやと考えたと思う。しかし,ついつい想いが強すぎるが故にいろいろなことが気になってくる。せっかく「これだ」という名前が思いついても,字画がどうだ,漢字の意味がどうだ,語呂がどうだと多角的に検討,修正を重ねていくうちに,最初のコンセプトとはまったくかけ離れた,意にそぐわない名前になってしまったりするものだ。

 こうした事態に陥らないよう,ディズニーでは新規に開発したものに名称を付ける際に,二つの指針を設けている。

 一つは「すぐにわかること」。考えてみれば,大勢の方に楽しんでいただかなければならないものなのだから,万人にとってわかり易くなければならないというのは当然すぎることである。例えば,ディズニーランドには三つのスリルライド系(キャー型)があり,それぞれの名前は「スペース・マウンテン」,「ビッグサンダー・マウンテン」,「スプラッシュ・マウンテン」である。「マウンテン」と付けることで,その名前のイメージから「高低差」がイメージでき,「落下」「滑り落ちる」などということが誰でも容易に推測できるようにしているのであろう。