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歴史から学ぶ新興国の対処法---コモディティー化の懸念

藤野 清=藤野技術コンサルタント
2009/04/02 09:20
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 中国が「世界の工場」と呼ばれるようになって何年もたつ。今は世界同時不況から中国といえども逃れられず,苦しい企業も少なくないようだ。それでも,人件費は日本の製造業と比べるとまだまだ低いこともあって,これからも成長していくことだろう。40年ほど前の中国を知っている者からすると,隔世の感がある。

 昭和43年(1968年),文化大革命のただ中にあった中国から,我々は押し出しプレス機の引き合いを受けた。文化大革命が始まる前年の昭和40年(1965年)に私が北京を訪れて,宇部興産の機械を宣伝したためである。その商談のために,営業から藤井克則課長,設計から谷口博美君の2人が訪中した。しかし,当時はまだ日本と中国の間に国交はなく,正式な取引が難しいという問題があった。そこで,宇部興産ではなく,藤井課長と谷口君の頭文字を取った「藤谷商会」という名前で応札することになった。

 ところが,肝心の商談はなかなか進まない。いや,まともな話にならないのだ。会議を始めようとすると,その前に「毛沢東語録」を読まされる。さらに,技術的に到底無理な注文を付けられる上に,価格は信じられないほど値切られる。電話がかかってきて話している最中に,うかつなことを言ってしまった時は,それが盗聴されていたら大変なことになる。こうした目に余る中国側の対応に閉口し,「残念ですが,今回のご注文については結構です」と断ろうとした時の対応には面食らった。「そうですか。では,おたくは非友好的な会社と認められてもよいということですね?」という言葉が返ってきたからだ。

 また当時,宇部興産の化学部門は窒素肥料である硫安(硫酸アンモニウム)の中国輸出で息をついていたため,断るに断れないという事情もあった。やむを得ず受注し,機械を製作して納入したのだが,その後はデタラメなクレームに悩まされた。機械をきちんと動かすための作業員の育成をしていないのに,機械が動かないとか,機能が低いとか,信頼性がないとか言って,一方的に我々を責めるのである。

 背景には,文化大革命中のスローガンの一つで,反論こそに道理があるという意味の「造反有理」があったようだ。これにより,無責任なことを言う人間の発言でも止める者がいなかったのだ。当時国交のなかった中国側と交渉に当たった社員は,交渉が済むまではパスポートを取り上げられていて,日本に帰ることができなかった。交渉が長くなると代わりの交渉員を派遣し,結局,機械の価格が2/3になるまでクレームを付けられ続けた。ここで泣く泣く了承すれば帰国できるという有様だったのだ。聞いてみると,こうした対応を受けたのは我々だけではなく,日本メーカーはどこも似たようなものだった。戦争を経験した我々としては,こうした対応を「形を変えた戦時賠償だろう」と受け取るしかなかった。

 この状態は国交を回復した後も,文化大革命が終了するまで続いた。我々はその文化大革命終了後も多くの受注を得たが,岸本脩君などの活躍もあって,他社よりは多少有利に仕事が進められたことが,せめてもの救いだ。しかし,中国は日本に対して二千年来の中華思想を持っている。朝貢国の日本が宗主国の中国の言う事を聞くのは当たり前という感じを当時は受けた。

 文化大革命が終わった昭和50年代(1975~84年)の商談でも,物理的に不可能な生産保証を要求してきたことがあった。その際,引き合いに出してきたのはフランスメーカーだった。「フランスのメーカーは生産量を保証してくれている。だから,宇部興産も応じてくれ」と。だが,宇部興産としては既に中国で多くの実績があった。その実績から見ても,中国側が要求してきた生産はできないことを,彼ら自身も知っているはずなのだ。それでもなお,要求し続けるのである。

 フランスメーカーの実力から言って,そうした要求に応えられないことを我々は知っていた。いくらお客さんとはいえ,こうも話が分からないのではやっていられない。堪忍袋の緒が切れた私は,思い切って彼らにこう言った。「我々はこの仕様で米国にも輸出している。私が知る限り,フランスのメーカーは米国に輸出できるほどの技術力は持っていない。だから,中国に来てあなたたちにウソを言っているのだ。それでもフランスのメーカーが良いというのなら,宇部興産の機械は買っていただかなくても結構。フランスの機械を購入したらいかがですか。私は明日帰国する」と。するとどうだろう,うるさいほどに要求を言い続けた彼らの口が閉じた。そして,次の日に注文をくれたのである。

 当時の中国は日本に対しては強く出るのだが,欧米に対しては腰が引けていた。技術力も経済力も遠く及ばない上に,アヘン戦争に敗北して以来,歴史上でも優位に立てていなかったことなどが背景にあるのだろう。しかし,このことが日本メーカーにとって有利に働くことが分かった。技術力に優れた米国やドイツの企業への輸出実績があることを強調すると,中国企業の人間は素直に認めてくれ,無茶なことは言わなくなったからだ。

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