なぜ高い,日本メーカーの開発費

 日本の半導体メーカーの売り上げに占める開発費は一般に大きい。原因は3つほど考えられる。
(1)製品の品揃えが多く,規模のわりには先端技術の開発項目が多い。
(2)海外勢が装置メーカーに任せている装置技術や基礎プロセス技術もカバーしている。
(3)コンソーシアムによる二重開発構造。

 (1)については一目瞭然と思われるので説明を省く。(2)について。大手の半導体製造装置メーカーは一般に,製造ラインの建設,設備導入から試作まで一括で引き受けるフルターン・キー型のビジネスを目指している。ところが日本の半導体メーカーでは,装置メーカーに任せてもいいはずの装置技術やプロセス基礎技術を担当するエンジニアを抱えている。独自のプロセスがあるため,装置メーカーに特別仕様(CES:Customer Engineering Special)を発注することになり,装置の購入価格が高くなりやすい。

(3)について。一般に,開発コンソーシアムは,各社の強みを持ち寄り,コストを分担して技術を開発することを目的として設立される。ところが,実際にはうまく機能していないケースが多い。IMEC(Inter-University Microelectronics Center)のように,技術テーマを掲げて「この指とまれ」とメンバーを集めるのが本来あるべき姿と思われるが,国内のコンソーシアムの多くは“まず集まることありき”になっているふしがある。これは残念ながら,良くない意味で“日本人らしい”発想だ。この結果,コンソーシアムでは量産技術に直結しない技術を開発するケースもあり,実用化に向けては自社用に最適化したプロセスを開発しなおすといった二重開発投資の状況が発生しやすい。参画企業によっては,必要としない技術開発への投資も行われてきたのではなかろうか。

 開発コストの話からは外れるが,コンソーシアムは二重開発以外にも弊害を生んだように思う。コンソーシアムで日本メーカー同士が寄り集まって互いの同質性を確認しあい,気分的に安心してしまうことで,経営者は業界の既定路線からはみ出すような決断は下せなくなり,経営の均質化がよりいっそう進んだように思うのだ。好況下では似たり寄ったりの戦略でも問題ないだろうが,不況下では総崩れになってしまう。

統合は開発コスト問題にこう効く

 さて,開発コストの問題に経営統合はどう効くか。国内半導体メーカー大手が1.5社に絞られれば当然,現在は数社で並行して進めている開発が一本化されるし,開発用の装置や部材も少なくて済むので,自然と開発コストは下がる。上に挙げた3つでいうと,(1)については,これまで事業規模の小さかった品種も数社分を統合すれば採算のとれる事業となり,赤字の開発案件は減るだろう。もちろん,経営者の判断で製品系列を絞り込むことも問題解決への近道になる。(3)のコンソーシアムの問題は経営統合が成立すれば自動的に解消されるはずだ。従来のコンソーシアムを,自社の技術戦略に沿った開発を手掛ける“日の丸半導体の開発部隊”とすることも可能だろう。

 (2)については,自動的に解消とはいかない。(1)もそうだが,これは企業の戦略の問題なので,優秀な経営トップが「選択と集中」を“本気で”進めることを期待したい。(2)は海外メーカーに学ぶべき点があるように思う。海外のチップ・メーカー,特にアジアのメーカーは,プロセス開発は装置メーカーに任せる傾向が強い。さらに韓国のチップ・メーカーは,装置を実際に扱う技術者の習熟度が高まると,その技術者のスピンオフを推奨し,スピンオフで誕生した装置メーカーから装置を安く買うという手法を採っている。このやり方は,自社技術者の活躍の場を考える上でも検討に値する。