1枚のソーラー・パネルから

 オバマ大統領の父親の出身地,ケニアでは,地方の電力普及率は10%しかない。農村に住む90%の人は電気のない生活をしている。1人当たりの電力使用量は,年間にたった13kWhで,これはアメリカ人の約100分の1である(「太陽電池政策・技術年鑑2009年版」,日経BP社,2009年3月25日発行)。

 ケニアに限らず,アフリカの国々では,まだまだ未電化地域が多い。基本的には国の貧困が原因ではあるが,農村部に人口が拡散しているため,送電経費が高いというのが大きな障壁になっているようだ。実際,アフリカでは,送電線設置費用が自己負担という地域が多い。

 今,世界中でもっとも太陽電池を必要としているのが,こうした国々である。これらの国々では,小規模な太陽光発電装置があれば,離村の電化が可能になる。井戸水を汲み上げたり,灌漑用ポンプを動かしたりして,農業の生産性を上げることができる。学校に電気を点すことで,子供に文明の意味を教えることができる。携帯電話が使えるようになれば,急病人を救うこともできるだろう。アフリカでは,世界のボランティア団体や旧宗主国であるヨーロッパの国々の援助で,太陽電池自家発電システムが少しずつ配置されているが,まだほんのわずかだ(こうした活動には日本の企業も積極的に取り組んでいる)。

 アフリカを始めとした開発途上国が,長期的には世界の環境問題の最大の課題となる。人口の増大と食料や水の不足が,地球温暖化よりも前に,はるかに深刻な問題として現れる。世界の人口は今世紀半ばには,現在の1.5倍,90億人を超すと予測されている。人口増加率が最も高いのが,こうしたアフリカなどの貧しい国々である。

 この問題に対処するもっとも効果的な方法は,アフリカをはじめとした開発途上国の近代化,あるいは教育の普及である。その最初のきっかけになるのが,たぶん,1枚の太陽電池パネルによる電気の普及である。

 米国のオバマ大統領は,米国で設置する太陽電池パネルの1%をアフリカに寄付する制度を作ったらよいと思う。アメリカの人は太陽電池パネルを購入するたびに,なぜ1%分値段が高いのかを考え,環境問題のグローバル性を理解するだろう。地球温暖化を防ぐということは,環境問題の一つの側面にすぎず,本質は増えすぎた人間と地球という限られた資源の間のあつれきだということに気づくだろう。米国が環境先進国になれるかどうかは,結局,地球をこんな風にしてしまったのが20世紀の大量生産・大量消費システムであることに気づき,それに代わる仕組みを見つけることができるかどうかにかかっている。