趣旨
連載開始日現在,世界は未曾有の経済不況に覆われている。とりわけ自動車や半導体エレクトロニクス分野の落ち込みは大きい。そもそも長期低落傾向にあった中での今回の大不況は,日本の半導体メーカーに極めて厳しい決断を迫っている。業界に携わる諸氏は大変なご苦労の日々と察する。  現在まず取り組むべきことはコストの削減と資金の確保である。工場稼働率の調整や一部工場の統廃合,人員の適正化,経費節減,増資など既に各社が取り組んでいる。確かに売り上げが大幅に減る中で,これらはいまや不可避の対策には違いないが,本来ならば改革は業績が好調なときにこそ手をつけるべきだった。土俵際に追い込まれる前に打つべき手はあったと思うが,外部から見る限り,日本の半導体メーカーが強い企業になるための方策を十分に施してきたとは残念ながら言いがたい。  火事場へ来て消防組織について論じるようなことは避けたいが,日本の半導体メーカーは強くなるために何をすべきだったのか,今から何ができるのか,可能な限り具体的に考えてみたい。「日本の半導体メーカー」と限定的なテーマではあるが,ほかの業界に共通の課題も少なくないはずである。読者の皆さんが仕事について会社について,あるいは自分自身について,考えるキッカケや考えるときの叩き台になれたら幸いに思う。
赤坂 洋一(あかさか・よういち)
1943年生まれ。大阪大学工学部卒,基礎工学部大学院卒。工学博士,三菱電機LSI開発部長としてDRAM開発やULSI開発棟建設のリーダーを務めた。1992年に米Applied Materials, Inc.の日本法人へ移籍。代表取締役社長と米国本社の上級副社長を兼務。野村マネジメント・スクールを修了。2001年から北陸先端科学技術大学院大学や大阪大学大学院で教鞭をとる。その間,三菱電機時代の後輩とファブレス半導体ベンチャーの「マグナデザインネット」を沖縄に設立。現在は非常勤の立場でマグナの社外取締役やフジキンの顧問,大阪大学招聘教授,北陸先端科学技術大学MOT教授などを務める。