「事故を防ぐ能力が,一見オーバースペックに見える部分に隠れていることも多くあります」---。

 ある読者の方から,前々回のコラムに対して頂いたコメントである(Tech-On!Annexの関連コメント)。このコラムでは,日本製品が新興国市場で苦戦しているのは「オーバースペック」が一因だと言われているが,それは単に製品の良さが知られていないだけの話ではないのか,という説を紹介した。その「知られていない良さ」には,性能や機能だけでなく,「事故を防ぐ」,つまり「安全」が含まれている,というわけだ。

 別の見方をすると,新興国の企業が設計・製造した製品には,相対的に「安全」が含まれていない,ということになる。「安全」は見えにくく普段は気がつかなくても,それは時として「事故」と言う形で牙をむく。製品事故に詳しい日本科学技術連盟R-Map実践研究会統括主査の松本浩二氏によると,例えば,中国製品が事故を起こしてリコールするケースが増えているという。

リコール件数の半数以上が中国製品に…

 日経ものづくりがこの3月2日に開催したセミナー「製品事故をどう防ぐ---今後必須となる『リスクアセスメント』の導入と勘どころ」で語っていただいたもので,欧米では2008年に総リコール件数の内,中国製品が過半数を超えたそうだ。日本では製品評価技術基盤機構(NITE)が集計しているが,まだ欧米ほどではないものの,中国製品はリコール件数の1/3を超えさらに増え続けているという。「日本でつくって販売している製品だけ見ていても,国民の安全が担保できない時代になってきた」と松本氏は警鐘を鳴らす。

 例えば,松本氏は講演の中で,米国の製品安全関係の組織であるGPSC(The U.S. Consumer Product Safety Commision)がいまだに教訓としてWebなどに載せている事例として,ヘアドライヤーの事故を紹介した。米国では入浴中にヘアドライヤーを使う習慣があるために,お湯の中にヘアドライヤーを落として感電して心臓麻痺で死亡する事故が過去には年間20件もあったのである。そこで1991年には技術基準を改定し,漏れ電流を検知して電流を遮断する安全装置をプラグに設置することにして,死亡事故は激減した。しかし,そうした規制後でも中国企業が安全装置をつけずにへアドライヤーを販売して死亡事故を起こし,リコールされたケースがあったのだという。

 中国製品については完成品に限らず,部品についても注意が要る。これは講演後に聴いた話であるが,ある日本企業が中国企業製のギアを使って製品を発売したところ,ギアの磨耗による事故が発生して,リコールする事態に陥った。よくよく調べてみると,施してあるべきはずの高周波焼入れがされていない。設計段階で指定し,試作段階で確認したにもかかわらず,量産段階で中国企業は高周波焼入れをせずに部品を出荷したのである。日本の設計者は,中国部品を使うときは,このような事態を想定してリスクを下げる手段を講じることが求められているという。これはつまり,日本企業が中国部品の安全性を上げるためのコストを負担しているともいえるかもしれない。