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技術革新の“矛盾”---相反する競争力と売り上げ

藤野 清=藤野技術コンサルタント
2009/03/19 12:50
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 大木伸銅工業(本社東京都)に銅用押し出しプレス機を納入する際に巻き取り機を造ったので線材の加工はうまくいった(「“金看板”に偽りあり」を参照)。だが,管を加工するには偏芯が大きく,製品となるはずの銅管に大きな偏肉が生じてしまって,なかなか十分な結果が得られずに困っていた。

 この偏芯を防止する何か良い方法はないかと調査するうちに,ドイツのシュレーマン社が考えた米国特許と出会った。早速,日本特許を調べてみると,ここでは申請されていない。恐らく,まだまだ日本の未熟な技術では,銅管を偏肉なしで造ることなどできないと同社は高をくくっていたのであろう。これなら真似をして製作しても,日本国内向けならば法律違反ではない。

 よし,この方法で行こうと考えたものの,単にアイデアを知っただけでは形にするのが難しく,なかなか設計の具体案が浮かばない。こうした中,石川島播磨重工業(現IHI)がシュレーマン社と技術提携するという噂が伝わってきた。押し出しプレス機の市場に参入するというのだ。まずい,このままでは小規模な我々は早晩,IHIにつぶされてしまう。さらに調査を進めると,既にシュレーマン社が日本企業に販売して輸出し,日本の工場で稼動している押し出しプレス機まであることが分かった。

 その組立図でも入手できればなんとかなるかもしれない。私は営業担当の清水和茂君に「シュレーマン社の押し出しプレス機を使っている日本企業を探して組立図を借りてきてくれ」と頼んだ。清水君は「そりゃ,無茶だ」と答えた。無茶は承知だ。しかし,無茶なことでもしないと,我々のような小さな部門は巨大な企業に飲み込まれてしまうのだ。

 初めは悪い冗談くらいに受け取っていた清水君も,私が何度も真剣に言ってくるのを見て観念したようだ。どこで手を回したのか,無茶をやってのけた。私の依頼通り,シュレーマン社の機械の組立図のコピーを1枚,手に入れてきたのだ。随分無理をして入手したのだと思うが,清水君が故人となった今となってはその方法を聞く術はない。

 果たして,その組立図は見事と言うほかなかった。さすがにドイツの押し出しプレス機の元祖だ。しかし,感心ばかりしてはいられない。我々はその組立図を製図板に張り,皆で構造を解析して特徴を把握するとともに,短所まで洗い出した。その上で,長所を生かし,短所を補った押し出しプレス機の設計に取り掛かった。

 ちょうどその頃のことだ。住友軽金属工業から大型の2500tの複動押し出しプレス機(線材と管の両方を加工できるタイプ)の引き合いがあった。設計担当の谷口博美君が同社に赴いて説明すると,先方から「シュレーマン社とそっくりではないか」と言われた。それはそうだ。我々はシュレーマン社の組立図を基に設計したのだから。結局,我々はこの受注競争に敗れ,シュレーマン社と技術提携したIHIが住友軽金属工業の受注を取った。昭和44年(1969年)のことだ。これで宇部興産の押し出しプレス機の危機が現実のものとなってしまった。

 谷口君は我々が設計した図面を持って,全国の顧客を飛び回って利点を説明した。すると,神戸製鋼所の長府工場が「次の押し出しプレス機は宇部興産に発注する」と言ってくれた。住友軽金属工業の機械の受注でIHIに破れてから3カ月後のことだ。ここから我々は「製作のスピードでIHIに負けるな」とばかりに製作を急ぎ,IHIの1号機の完成に遅れることわずか2週間で機械を完成させた。

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