終身雇用だから定年は必要?

 ある記事によれば、「アメリカだってそうだし、定年って時代遅れなんじゃない?」という議論は、日本でもあったらしい。

 定年制を禁止すべきだというかなり強い意見もありました。本人の意欲や能力にかかわらず全員を一律に60歳で解雇するということは、時代の流れに合わないというわけです。

 実際、米国には定年制がありません。年齢による差別はまかりならんという最高裁判所の判例があるからです。ただ、日本のように解雇規制が非常に厳しい中で定年制を廃止してしまうと、企業は「職場に残って働き続けたい」という人をいつまでも雇い続ける義務を負ってしまう。米国で定年制を禁止できたのは、企業側に“解雇の自由”が認められているからです。

 定年制というのは、60歳になったら会社を辞めなければならない代わりに、その裏返しとして60歳までは雇用を保障するという会社と社員の“契約 ”です。もし定年制を廃止するなら60歳以前であっても企業が雇用調整できるようにするのが筋ですが、今の日本では現実的ではありません。今回の労働法制改革でも、解雇の金銭解決制度の法案化さえ見送られましたから。結局3つのオプションを残し、企業が選択するという現実的な形に落ち着いたのです。

 簡単にいえば、終身雇用と定年退職はペアで、終身雇用があるのに定年退職だけ廃止することはできない、という議論である。しかし、実態として終身雇用制度は崩壊しつつある。そのことを、多くの技術者の方々が今、わが身をもって再認識されていることだと思う。けれども、「終身雇用制度が崩壊しつつあるのなら、ペアである定年退職だけを残すわけにはいかない」という声はとんと聞かない。中村教授の怒りをもった指摘も、なるほどと思ったりするのである。

カネを稼ぐのは恥ずかしいこと

 そんなこともこんなことも、教育が悪いのだというのが中村教授の持論である。「私が特許報奨金や給料の話をすると、あいつはゼニゲバだ、なんて言われるんですよね。でも、何でカネの話をしちゃあいけないんですか。現代社会に住む以上、カネがなければ生きていけないじゃないですか。だからアメリカでは、カネを稼ぐ能力を人が生きていく上で欠かせないものと位置づけて、小さいころからその大切さを教え、実際にその訓練もするんです。でも日本では、教育にカネ儲けの要素を持ち込むなんて絶対にダメ。教育の場でカネはタブーなんですね。だからビジネスでアメリカに負ける。基礎学力が、なんて言う人がいるけど、全然違う。カネを儲けるという、現代人にとって一番大切なことを一切学ばせないんですから、かなわなくて当然なんです」。

 あるベンチャー企業の経営者に、こんな話を聞いたことがある。高校生のとき彼は、授業の様子を面白おかしくつづった冊子を作っていた。回覧したらこれがすごく人気なものだからガリ版印刷をして校内で売ってみたら、これがまたすごく売れた。それを資金にしてまたコツコツ続編を作っているうちに、このささやかな商売が教師にバレてしまったらしく突然呼び出され、「何て恥ずかしいことを」と猛烈に怒られたのだという。「カネを稼ぐというのは恥ずかしいことなのだと、そのとき初めて知ったわけです。知っただけで納得はしなかったから、まあ今でもこんなことをやってるけどね」