優秀かそうでないかはともかく、ベテランには、長年かけて獲得した技能や実績がある。それは、企業にとって不要なものなのだろうか。積み重ねた経験もある。経験というものは、「今では不要になってしまった過去の残影」ではない。事故を事前に察知しリスクを回避したり、起きてしまったトラブルに対処したりする際にこのうえなく貴重なデータを提供してくれるものなのだ。それも企業にとって不要なものなのだろうか。長年会社に籍を置く人には、人的ネットワークもある。それが、ときとして新たなヒントを与えてくれたり、問題解決の突破口になったりもする。それもやっぱり、企業にとって不要なものなのだろうか。

アメリカでは立派に違法

 どうも分からない。で、代表的メーカーに長年身を置いておられた水野さんに聞いてみた。ベテランから減らしていくという常套手段って、実はおかしいのではないかと。

 「それ以前の問題として、情けない限りですわなぁ」と彼はいう。「苦しゅうなったら人を切る。これでいいなら誰でもできますわ。小学生でもできる。でも、切らんで何とかしようと思えば知恵がいる。その知恵がない言うことなんですなぁ」。ベテランからリストラされていくということに関しては、「おかしな話ですわ。アメリカなんかだと、普通は逆でっせ」などとおっしゃる。逆ということは、リストラのときはベテランを残して若い人から対象にしていくということか。

 水野さんのお話を疑うわけではないが、一応調べてみたら、こんなものがあった。「セニョリティー・ルール」というもので、解雇する場合には勤続年数の短い人から順番にやっていくやり方のこと。アメリカでは、レイオフなどの際にはこれを適用する企業が多いらしい。このルールによれば、実態としては若い人から解雇されるということになるだろう。ただし、基準はあくまで年齢ではなく勤続年数である。どうやらアメリカでは、年齢を解雇の理由にすること自体が違法とされているようなのである。

 彼の地においては「雇用における年齢差別禁止法」が1967年に成立して以来数度の改正を経ており、現在では40 歳以上の労働者について採用・解雇・賃金その他雇用の場面での差別が原則的に禁止されているようだ。そして、日本でも同じような法律がある。2007年10月に施行された改正雇用対策法で、「事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」。ただし、解雇、賃金については触れられていない。だから、定年退職や役職定年、さらには年齢を理由にした解雇は、アメリカではれっきとした差別で違法だけれど、日本では適法ということになるのだろう。