いや、定年まで働ければいい方なのかもしれない。その前に「役職定年」で給料が激減したり、肩たたきによって退職を迫られることもある。それに応じなければ、出向という名目で関連会社などに出されてしまったりもする。そんなことが日常的に行われているところに、この大不況である。新聞報道によれば、電機・機械メーカーを中心に正社員の雇用環境も急激に悪化しており、2009年に入って希望・早期退職者を募集した上場企業は少なくとも81社に達し、08年の通年での実績(68社)を早くも上回った。募集人数を公表している70社の合計では6665人。2000年以降で最悪だった02年には200社、2万8000人を超えたが、09年はこれを上回るペースで募集が増えているという。

技能や経験は無用の長物か

 先日、前勤務先である某エレクトロニクス・メーカーの、私が属していた研究部のOB会があり、その状況を実感した。会自体は大盛況で30名は集まっていただろうと思うが、今でもそのメーカーに所属している人を数えれば、片手で十分足りるほどしかいない。ある方は関連会社に出向してそのまま転籍になり、ある方は早期退職制度で会社を離れたのだという。まだ60歳にもならないのに会社を辞めることになり、いまだ次の身の振り方も決まっていない方も複数おられた。

 20年以上も前のことになるが、職場のどこかで拍手が沸き起こり、見れば定年を迎えられたとおぼしきベテラン社員の方が花束を受け取っておられるというシーンを何度となく目撃した。自分は「根性なし」だから5年そこそこの勤務で転職してしまったけれども、残った方々のほとんどはみな定年まで立派に勤め上げ、拍手と花束に送られて職場をあとにされるのであろうと想像していた。けれど、そんなことは昔のおとぎ話になってしまったようだ。

 状況は一層悪化している。人減らしに心血を注いだ甲斐もなく、前職の会社も相当ひどいことになっているらしい。その会社で生き残った希少な存在である某先輩も「また人減らしが始まるよ」と予想されていた。「まずは55歳以上かな。そのうち50歳以上、それでもダメなら45歳以上てな感じで。まあ、よくあるパターンよ」。

 まあそうだろうなぁと思う。けど、よく考えると不思議なやり方である。なぜベテランから減らしていくのだろうか。「ねえ、そう思いません?」と聞いてみたら、「そうかも」という。彼によれば、某社のベテランは技術者としてすごく優秀。そのベテランが入社したころは、エレクトロニクスは花形産業で、某社はその一角にあって老舗大手の有力企業と目されていた。選りすぐりの優秀な理系学生が入社し、会社を支えてきたのだ。ところがその後、理系離れが進行し、その中にあって電気電子系学科の凋落ぶりはすさまじく、さらには某社の業績不振で人気はどんどん落ちていった。トリプルダメージである。「それでも、優秀な人は入ってくるよ。でも、その数がどんどん少なくなってきたような気がするんだよね。そもそも、新入社員の絶対数が減ってるし」と彼はいう。