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異分野への技術の流用が価値を生む---需要減退時の対処法

藤野 清=藤野技術コンサルタント
2009/03/12 14:45
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 池田勇人内閣が昭和35年(1960年)に打ち出した所得倍増計画(注:国民所得倍増計画,1961~70年の10年で実質国民所得の倍増を目指したもの。結果,実質経済成長率は11.1%に達した)に始まる日本の高度経済成長は,今思うとすさまじかった。若い人は想像しにくいかもしれないが,現在の中国を代表とした新興国の成長と考えてもらえばいいと思う。この時代に大量の工場や道路,新幹線などが建設された。現代の日本の基盤がこのときに造られたと言っても過言ではない。

 その建設のために最も必要とされたのが,鉄とセメントだ。宇部興産でもセメントの増産が相次ぎ,宇部セメント(現宇部三菱セメント)の西工場(現宇部工場)に,直径6.2×長さ165mと当時世界最大のマンモスキルン(窯)を昭和43年(1968年)に建設した。年産100万tの規模だ。

 だが,初めての超大型キルンであったこともあり,いろいろなトラブルが続出した。中でも私の頭を悩ませたのは,キルン胴体を回転させる直径8mもある大きなガースギヤの歯の摩耗だ。キルンの運転を開始して1年後,このガースギヤの歯が15mmも摩耗してしまったのである。私が設計部長になって,最初に直面した大問題だった。

 最初はキルンの設計者に対策を求めたのだが,できないと言う。仕方がないので,宇部セメントと共同で我々も調査してみたのだが,いくら調べても原因が分からない。たまらず,私の恩師だった九州大学の平野富士夫教授に来ていただいたところ,摩耗粉を見た平野先生が「藤野君,これは叩いているよ」とおっしゃった。この言葉をヒントに,改めて調査すると原因が見つかった。そこで,我々はすぐに対策を立て,新たなガースギヤを設計した。このガースギヤはキルンが廃棄されるまでの約30年もの間,役目を果たし続けた。

 それほど変化はないと思われていたセメントの製法も急速に進化し,宇部セメントが伊佐工場に設けたキルンも同じく直径6.2mのタイプでありながら,1本当たりの生産量は年産200万t,300万tと増加していった。このセメントの製法の変化に伴い,宇部興産の大型ロッシェミル(原料粉砕機)の受注は急激に増加した。

 一方,大量の鉄の需要に対応するために,大型の製鉄所が日本に次々に建設された。昭和30年(1955年)代の前半に,宇部興産の機械部門である宇部鉄工所が下請けとして細々と始めた製鉄機械の仕事も,大量に受注してようやく日の目を見るようになった。ただし,付属的な“雑仕事”ばかりで,大型の圧延機などの大きく儲かる仕事は大手重工メーカーが独占していた。悔しいが,宇部鉄工所は目玉となる商品がない。

 しかし,いつまでも指をくわえて見ているわけにはいかない。何とか打開策を見いだせないかとみんなで考えていた。すると,何か特徴のある商品を造りたいと考えていた,製鉄機械の設計課長だった海地哲男君(故人)が,割合こぢんまりとした仕事だが,鋼板の熱延精整設備であるスキンパスミルを開発してみたいと提案してきた。ただし,問題が一つあると言う。このスキンパスミルの制御方法について,日立製作所が特許を持っているということだった。

 大手総合電機メーカーに特許を押さえられているのなら,それを回避することは難しいかもしれないと思いつつ,その特許を調べてみた。すると,日立製作所には申し訳ないのだが,特許の内容はあまり良い案ではないと感じた。というのは,我々には既に得意技となっていた油圧制御技術があったからだ。設計者の谷口博美君が一生懸命に勉強している押し出しプレス機の油圧制御技術を応用すれば,スキンパスミルの制御もうまくできそうだと思ったのである。そして,この油圧制御技術を投入したスキンパスミルを提案したところ,新日本製鐵の名古屋製鉄所から受注を得ることができた。これが,宇部興産が造ったスキンパスミルの第1号機だ。

 一つの分野で確立させた技術を,異なる分野の製品に流用することで,付加価値をぐっと高めることができたのである。というのも,日本国内で製鉄所の建設ラッシュが終わりを告げ,日本の顧客を失った後でも,我々のスキンパスミルは製鉄機械の中で生き残り,約20年もの間,世界中に輸出できた製品だったからだ。世界で生き残ることができた理由はただ一つ,特徴のある独自技術を備えていたことだ。

 1973年の第一次オイルショックのころには,鉄もセメントも生産能力は1億tを突破し,量的には増設の必要はなくなった。これにより,我々の従来の機械の受注も激減した。しかし,市場全体の需要が伸びないときでも,品質改善や合理化を目指したプロセスの変更は行われる。ここに,新たな製品の需要が生まれる。そして,この新たな需要を手にするには,既に開発している独自技術が意外に効力を発揮することがあるということだ。

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