ウォークマンと柔道が失ったもの
ソニーの業績不振に関して語られてきた文章は数え切れないほどあります。同社は戦後日本の成功モデルの代表選手のような存在であり、敗戦によって失われたプライドを取り戻してくれた日本の宝物だといえるでしょう。ソニー論の多さは、それだけ愛されているということの証左なのかもしれません。ウォークマンとiPodの比較、あるいはプレステシリーズと任天堂ファミコン系列との比較分析がしばしば議論の題材に取り上げられます。私にも技術開発のコンサルタントとしてのソニー論があります。今回はウォークマンとソニーらしさの関係性についてお話をさせて頂きたいと思います。
まず何をもってソニーらしさと定義すること自体が議論百出のことでしょう。私の思うソニーらしさとは、次の文章の中に隠されています。盛田昭夫氏が文藝春秋に書いておられる「ウォークマン考’81・4」(『巻頭随筆3』、1982年4月、文春文庫)の冒頭の一節です。
一昨年の早春に、当社の井深さんが「他人に迷惑のかからないようにステレオを聴きたいのだが、あのヘッドホンは、重くて困るし、ステレオからひもつきでは行動も束縛される。携帯用のステレオカセットにヘッドホンをつけて歩いてもみたが、重くて仕方がない」と言いながら一式を私の部屋に持ち込んできた。そこで私も同様に実験してみたが、なるほど音楽は楽しめるが、全く重くてどうにもならない。
ウォークマン誕生前夜の二人の熱い技術者の息遣いが伝わってくるような描写ですが、ここで私が注目するのは冒頭の「他人に迷惑のかからないように」という部分です。初代ウォークマンは1979年に登場しました。70年代のその当時は、音楽を持ち歩くというコンセプトの黎明期、ラジカセがその道具でした。重さが5kg近くあるような巨大なデッキが流行りで、竹の子族みたいな連中が代々木のホコ天にたむろしてガンガン鳴らすというのが先端モードの時代でした。「大音響で周りに迷惑をかけて自己主張する若者」という文脈でいえば、暴走族などと同じ流れを汲むものといえるでしょうか。そんな時代背景から出てきた「周りに迷惑を…」という言葉は、特に意識しないで自然に出てきたものだったのかもしれません。
地球を一周したら変わっていた
しかし敢えて私はこの言葉にこだわりたいと思うのです。ご存じの通り、ウォークマンは空前のヒット商品となりました。電子機器を身につけて音楽を持ち歩くという未来的な姿が世界中の若者の心を捉えたのです。その斬新な魅力を言葉で表現してみれば、自分と電子機器とを一体化させて周りに見せるという被写体意識のサイバーパンクな感覚ということになるのでしょうか。とにもかくにもそれはアッという間に世界中に波及し、市場を制覇し、ソニーのブランドを強烈に焼き付けました。
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