自動車が売れない。昨年に比べて優良企業で三割減,ビッグスリーは半減である。売れない理由はいろいろある。不況,ガソリン高,環境問題,ステータス性の喪失,東京では自動車は不要などである。実際,種々の要因が絡んでいる。しかし,要因ごとの対策は異なる。好況期に売りすぎた反動なら,待っていれば売れるようになる。それなら,我慢,我慢である。ガソリン高は致命的な打撃だったが,現在,ガソリンはリッター100円程度に戻ってきた。しかし,売れない。少なくとも,これだけが理由ではない。

 東京では自動車は不要である。しかし,この発言は自動車無しでは生活できない地方の方々の反発にあう。これも主因ではない。環境問題。これが主因なら自動車から鉄道への回帰ということで,国内年間600万台販売へ戻ることはないということになる。確かに,自動車に対する憧れは薄くなった。「いつかはクラウン」は死語になり,自動車の実体は富の象徴から毎日の足へと変化している。それならば高級車が死滅し,コンパクトカーが売れるはずである。それも売れない。

 このように売れない原因を考察していくと本質が見えてくる。それは,自動車が壊れなくなったということだ。現在,自動車の平均使用年数は12年程度である。10年前は9年であった。確かに古い自動車がたくさん街を闊歩している。リコールが社会問題となり,自動車業界は信頼性の向上に力を入れてきた。その成果が自動車の長寿命化である。技術者としては誇りたい所だが,信頼性向上が自動車の販売台数の低下の主因なら手放しには喜べない。

 私に指摘されるまでも無く,自動車会社の経営陣は販売低下の主因を見抜いている。見抜けば,対策をとるのが彼らの仕事である。現在の不況を出た後には,違う世界になっているだろう。

 具体的には自動車メーカーによる囲い込みが進むことになる。現在,ディーラーの利益は新車販売5割,点検5割である。ここで,長期保有化が進めば前半の利益が長期的に減少することは避けられない。つまり,後者に重心を移さざるをえない。参考にするのは複写機メーカーの戦略である。複写機を赤字で売って,紙とトナーで設けるビジネスモデルである。

 お客様を販売店に囲い込むために,購入時に次回車検までの点検パックを抱き合わせることはほとんどのディーラーが行っている。さらに,Volkswagen系列ではテスターを軸にした囲い込みを行っている。

 昔は不具合があれば,メカニックがボンネットを開けて点検した。今は違う。まずは,テスターである。最近の自動車はCANと呼ばれる車載LANが搭載されている。OBD(On Board Diagnosis,車載故障診断装置)と呼ばれるが,各部品の不具合情報は車載LANに流されている。だから,テスターを接続すると,不具合の部品が表示される。後は,これを交換すればよい。

 しかし,街の修理工場や個人で修理してもインパネの不具合警告灯は消えない。LANは共通でも,内部に流れるメッセージは各社固有である。そのため,警告灯を消すには専用のテスターが必要となる。そして,それを備えているのは正規ディーラーだけである。

 このような戦略は国内メーカーもとり始めている。トヨタ自動車は,携帯電話とOBDを結びつけたサービスを提供しているし,日産自動車のGTRは専用の工場でしか維持管理が出来ない。売れなければ売れないなりのビジネスモデルは既に始まっている。不況を言い訳に縮こまっていてはいけない。今こそ,明日の対策を図る時期である。