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第3回・塗装コスト350円/個の攻防(2)

野町 直弘=アジル アソシエイツ 代表取締役社長
2009/03/17 17:00
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「コストを決めるのは設計の仕事なんだよ!」

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 鈴木は購買のフロアに行く。田中に躯体のコストの話をするためにだ。鈴木は購買フロアで田中の姿を見つけ声をかける。
 「田中さん」
 「よお,えっと鈴木さんだっけ。樹脂成形のやり方わかったか?薬師の営業部長が感心していたぞ。ずいぶん熱心にメモ取っていたって」
 「田中さん,それどころじゃないんです。新製品原価検討会議で原価目標未達が問題になっちゃって。例の躯体ですけど,田中さん,在家が一番安いって言ってたじゃないですか。何で今650円のものが1200円になっちゃっているんですか。何でコストがこんなに上がっているのですか?」

 田中は少し,むっとしたようだ。
 「鈴木さんよぅ。それは日本語の使い方が間違っているぜ。コストが上がっているのではなく,コストを上げたんじゃないのか? それも設計が」
 田中はパソコンに向かい,資料をプリントアウトする。
 「これが新製品と現製品の見積原価明細,それからサプライヤー選定提案書だ。まだ最終承認をもらっていないけど,よく見てみろ」
 鈴木にとっては原価明細書というものを見るのは初めてだった。一番上の欄に仕様,材質,重量等の設計スペックが書いてあり,真ん中には材料費,加工費,二次加工費,そして下にはコスト計,金型費用の明細,概略の金型図面が記載されている。
 「これが現製品,これが新製品。この二つをよく見てみな。鈴木さん」田中は続ける。
鈴木は慣れない原価明細を見ながらその2枚の見積書の違いを探す。大きな違いは一目瞭然であった。新製品の見積書には塗料,塗装費の項目が2次加工費に含まれている。このコストが400円追加されていた。

 「田中さん,これって新製品の躯体だけ塗装コストが入っているんですけど」
 「そうだ。今の要求仕様を満たすためには材着(塗装レス)では無理。塗装コスト分だけ高くなっている」
 「私が出図した図面に塗装指示なんて出していません。もし塗装が必要だとしても交渉して,そのコストを抑えるのが購買の役割なんじゃないですか?」
 「何言ってるんだ。図面がでてきて,作るものが決まる。購買が作るサプライヤーを決める。それでコストは決まる。あとはそれに見合った見積書が自動的にサプライヤーから出てくる。何で交渉なんかする必要があるんだ。交渉なんて無能なバイヤーがやる仕事だ。俺はこの10年間交渉なんて一切やったことはない」。田中は興奮を抑えながら静かに続ける。

 「それにサプライヤーからは今回の新製品開発に合わせて,これだけの提案とプレゼンをやっている」。田中はサプライヤー選定提案書に書かれているサプライヤー提案書のリストと新技術動向の資料を見せながら言った。
 「…」鈴木は言葉につまった。
 「鈴木さん,コストを決めるのは設計の仕事なんだよ」。彼は机の上の一冊の「サプライヤー提案書」というファイルを取り出しながら続ける。
 「在家から今回の新製品の躯体で塗装レスの提案が来ている。材料はやや高くなるが,質感は塗装したものとほぼ変わらないし,コストは現製品+50円アップで済む,と言っている。設計が塗装指示しなくても,品質管理とかマーケの連中の一言でコストなんてすぐアップする。もう一度在家からサンプルと取り寄せて塗装レス品の採用検討をしたらどうだ?」

 「…」鈴木は返す言葉につまった。確かにそうすべきだろう。ただ,その前にどうしても聞きたいことがあった。
 「田中さん,お伺いしますが,購買の仕事って何ですか?」
 「QCD(Quality,Cost,Delivery)の確保できる最適なサプライヤーの選定とサプライヤーとの関係構築。それから強いて挙げれば,単に安くするのではなく,最適コストの実現だ」

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