「このままじゃあ商品化できないってよ」

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 設計センター長と設計2課長,佐藤を含む何人かの先輩エンジニアが苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら無言で室内に入ってきた。何かの会議に出ていたのだろう。各人がそれぞれの机に散った後も,何か重苦しい雰囲気が漂っていた。「何か大きな問題があったのかな?」鈴木は一人つぶやいた。

 このものがたりの主人公である鈴木孝は総合電気メーカー「霜月電機」の入社3年目のエンジニアである。彼は現在彼の事業部の主力新商品である小型・軽量化されたデジタルビデオカメラの開発にかかわっている。

 鈴木は彼の短い設計経験の中でも「問題が起こったときは,必ず末端まで影響が及ぶ」ことを実感している。また「同じことなら,先の情報を取った方が後戻りの手間が省ける」ということも理解している。

 「よし,聞いてみよう」鈴木は隣の先輩エンジニアの佐藤に声をかけた。「佐藤さん,何の会議だったんですか?ちょっとただならぬ雰囲気だったんですけど…」

 「あ~,いい勘してるね。新製品原価検討会議だよ。頭くるよ。そのうち担当に降りてくると思うけど,『部品コスト30%カットしろ』だって」

 新製品原価検討会議というのは,社内の新製品企画・開発の段階で目標収益を確保するための全社の会議だ。この会議は財務部が主催し,事業部長が必ず出席する事業部内の大きな会議の一つであり,営業,企画,購買,生産,生産技術,そして開発部門が参加する会議である。

 佐藤は続ける。「このままじゃあ商品化できないってよ!」